政府の事業仕分けで予算削減の「憂き目」に遭い、経済性を巡って議論を巻き起こした日本のスーパーコンピューター(スパコン)が、7年ぶりに「世界一」に返り咲いた。開発関係者から喜びの声が上がり、「(世界)2位じゃだめなのか」の発言で注目を集めた蓮舫行政刷新相も称賛を送った。
一方の蓮舫行政刷新相は報道陣に対し、「極めて明るいニュース。関係者のご努力に心から敬意を表したい」と述べつつも、自らの発言については「メディアが勝手に短い部分を流した」と反論。「ナンバーワンになることだけを目的とするのではなく、国民の皆様の税金を活用させていただいているので、オンリーワンを目指す努力を期待したい」と注文をつけた。
理化学研究所と富士通が共同で開発中のスパコン「京」の計算能力が世界1位と発表されたことを受け、20日午後に東京都千代田区の理化学研究所東京事務所で記者会見した野依良治理事長(72)は、「今後の開発の励みになる」と笑顔を見せた。
「京」は、宮城、福島両県の企業から部品供給を受けており、東日本大震災後は供給がストップする恐れもあったというが、野依理事長は「被災地企業の皆さんの努力で開発が続けられた。被災地の方々とこの喜びを分かち合いたい。世界に誇れる日本の力は、復興の原動力になる」と語った。
日本のスパコン開発を巡っては、2004年にアメリカに世界一を奪われ、その後も中国や欧州など新しいライバルの出現に厳しい開発競争を迫られている。
こうした中、政府は09年11月の事業仕分けで、10年度分の次世代スパコン開発予算(約268億円)について、事実上の予算凍結と判定。この際、仕分け人を務めた蓮舫氏が
「(世界)2位じゃだめなんでしょうか」と発言し、科学者から批判を浴びた。
この日の会見でも、事業仕分けに関する質問が相次ぎ、野依理事長は苦笑いしながら、「やっぱり研究はトップを目指さなきゃいけない。科学技術の振興こそが日本の生命線だ」と強調した。
海洋研究開発機構の「地球シミュレータ」が2002〜04年に首位に君臨した頃に比べ、競争は激化している。100京級の検討が始まっている米国、スパコンへの投資を続ける中国に対し、「京」の後継計画も決まらない日本が競争についていけるかは不透明だ。
スパコンの性能は計算速度だけでは決まらず、ソフトウエアも重要。このため、「京」では創薬や太陽電池の開発、宇宙誕生の解明などにつながる模擬実験用のソフトウエア開発も進めている。防災への貢献も目的の一つで、現在は20メートル四方が最小単位の津波の計算も「京」では2メートル四方になる。
1位を獲得した京は、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画のもと、2012年11月の共用開始を目指して理研と富士通が共同で開発を進めている京速コンピュータ。筐体800台以上、CPU6万8544個を搭載しており、今回の計測ではピーク性能8.774 petaflop/sが記録された。2012年の完成時にはこれを10 petaflop/sにまで向上させる予定。そのほか、日本勢では、東京工業大学の「TSUBAME 2.0」が5位にランクイン。こちらは、前回の4位から1つ順位を下げている。
なお、2位の中国「Tianhe-1A」は2.6 petaflop/s、3位の米国「Jaguar」は1.75 petaflop/s。以下、中国「Nebulae」が1.27 petaflop/s、日本「TSUBAME 2.0」が1.19 petaflop/s、米国「Cielo」が1.11 petaflop/s、米国「Pleiades」が1.09 petaflop/、米国「Hopper」が1.054 petaflop/s、仏国「Tera-100」が1.05 petaflop/s、米国「Roadrunner」が1.04 petaflop/sと続き、初めてトップ10を1petaflop/s以上のシステムが占めた。
TOP500全体に目を向けると、国別では中国が62システムをランクインさせ、米国に次ぐ2位に躍進。CPU別では米Intel製が77.4%を占め、なかでもWestmereのプロセッサー群が前回の56から169へ数を伸ばしている。また、CPUのコア数では、クアッドコアのプロセッサが46.2%、6コア以上が42.2%という結果。サーバベンダー別では、1位が米IBM、2位が米Cray、3位が富士通となっている。
ちなみに京は、消費電力でも9.89MWで1位。ただし、TOP10の平均が4.3MWで、その約2倍の電力で2位から6位までのシステムの合計値を上回る処理能力を発揮しており、性能比ではTOP500全体の中でも最も効率的なシステムの1つに数えられるという。