今夏に予想される東京電力管内の電力不足で、評判の悪い計画停電を回避する策の一つとして、菅政権が電気事業法27条に基づく電力使用制限令を発動する方向になった。 発電用の燃料を節約するため一日の使用電力の「量」を減らすことが目的だった1974年の石油危機時と違い、今回は「ピーク」を抑えるため昼間の時間帯の消費電力カットを狙う。
石油危機時には、同法に基づいて契約電力500キロワット以上の大口需要家の使用電力量(キロワット時)を15%制限した。ただ、水道局や学校、鉄道などは対象から除かれた。当時を参考に、今回の発動でも病院や福祉施設などの除外が検討されるとみられる。 さらに石油危機の際には「用途制限」も発動。ネオンや広告灯の点灯を禁じ、繁華街が暗闇に包まれた。テレビ局は深夜放送を控え、百貨店やスーパーは開店時間を遅くするなど、電気使用の自粛も広がった。 当時の対策は火力発電所の燃料を節約するため使用電力量を減らすのが目的で、使う時間を考慮する必要はなかった。 これに対し、今夏の課題は、冷房使用が集中する真夏の午後1〜3時ごろの需要ピークの消費電力(キロワット)を抑え、需要が供給を一瞬でも上回ることで起こる、制御不能な「大規模停電」を避けることだ。 例えば、需要ピークの時間帯でない深夜にコンビニエンスストアが営業をやめても効果はない。 また今は、石油危機時とは企業の節電への姿勢にも違いが見られる。当時は通商産業省(現経済産業省)の行政指導などで節電が思うように進まなかったため、「伝家の宝刀」(当時の通産省幹部)である電力制限令の発動に至った。 一方、今回は日本経団連が主導し、すでに業界ごとに自主的な節電計画作りが進む。夏の昼間に電力消費が重ならないよう、ピーク需要が低下する盆休みや週末、夜間に工場を操業する案などが挙がっている。 政権側は、そうした企業向けに数値目標を示すと同時に、今後、経済界の自主計画作りが石油危機時のようにうまく進まない場合に備えるためにも、使用制限令の発動が必要と判断したとみられる。経済界側からも、「強制的な措置を発動してもらった方が調整しやすい」との声が出ていた。 ただ、夏の需要ピークに対し、東電の供給能力は最大25%足りない見込みのため、大口需要家だけでなく、家庭なども同程度の節電が実現できなければ、計画停電を回避できない可能性もある。政権では、節電に積極的な中小企業を政府が認定して企業イメージ向上につながるような奨励策や、家庭に節電意識を高めてもらう方策を検討中だ。