ジョブズ氏の「聖戦」だった「iTunesでビートルズ」
何年にもわたる実りのない交渉の末実現した「iTunesでのビートル作品販売」は、スティーブ・ジョブズ氏の聖戦だったとアナリストは言う。またこの契約は、苦境にあるEMIを救うかもしれない。
長く曲がりくねった道だったが、ビートルズがついにiTunes Storeにやってきた。
伝説的ポップグループ、ビートルズのアルバム13作が、世界最大のデジタル音楽販売サイトからダウンロードできるようになったと、Appleは11月16日に明らかにした。
「ビートルズはいつiTunesで買えるようになるのかと聞かれなくなるのが、とりわけうれしい」とリンゴ・スターは発表文で語っている。「ついに、欲しければ手に入るようになった」
価格は1曲1.29ドル、アルバムは12.99ドル、2枚組アルバムは19.99ドル。iTunes Storeのほかのプレミアム価格の曲と同等だ。
「Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band」「Revolver」「Abbey Road」などの人気アルバムの販売は、今四半期のデジタル音楽販売に弾みをつけるだろう。もしかしたら、長年ビートルズと契約している英レコード会社 EMI Groupを、3月に債務不履行に陥りかねない危機から救うかもしれないと情報筋は話している。
「今回の発表は、ユーザーの層を広げ、iPodの販売を増やす役に立つ可能性がある」とBGC Partnersのアナリスト、コリン・ギリス氏は語る。
「10〜12月期のiPod売り上げはAppleにとって非常に重要だ。最高で2000万台のiPodが売れるとみている。今回の発表は絶対にマイナス要因にならない」
EMIは、iTunesとビートルズの契約は2011年まで続く独占契約だとしているが、2011年のいつ契約が満了するのかは明らかにしなかった。
Apple創設者スティーブ・ジョブズ氏、ビートルズのマネジメント会社の英Apple Corps、EMIの間では何年にもわたって実りのない交渉が繰り広げられていたが、今回の契約はその末に実現したものだ。
「Appleからすれば、これはスティーブ・ジョブズ氏個人の聖戦だった。契約にこぎ着けて同氏は喜ぶだろう。ビートルズ作品はiTunesサービスに長年欠けていたものだ」とForrester Researchのアナリスト、マーク・マリガン氏は語る。
Appleはもっと早い時期の契約を望んでいたが、ビートルズ作品の管理者らが、個々の曲がばら売りされることや、違法なデジタルコピーの可能性が高まることで、貴重な楽曲の価値が下がると懸念したことが障害となっていた。
最初に契約の兆しが見えたのは2007年、AppleがApple Corpsとおよそ10年にわたる商標紛争で和解したときだった。
だが故ジョン・レノンの妻オノ・ヨーコ、故ジョージ・ハリスンの妻オリビア・ハリスン、存命のポール・マッカートニーとリンゴ・スターの間で、楽曲のデジタル配信を許可するかどうかについて意見が一致しなかった。
契約までにこれだけ長くかかったことで、多くの評論家は、ビートルズはもう音楽ダウンロード販売の黄金期を逃してしまったかもしれないと感じている。デジタル音楽売り上げはこの1年で減速している。アナリストは、ビートルズの楽曲は、この10年の間に大部分がファンの持つCD、あるいは違法なファイル交換ネットワークからコピーされていると思っている。
「ビートルズにしてみれば、ついにデジタル世代へとやってきたわけだが、長らく延び延びになっていたため、宣伝されていたほどの重大事とは到底言えない」とマリガン氏は言う。
この契約が発表された現在、EMIのオーナーである投資会社Terra Firmaは厳しい状態にある。同社は今月、EMI買収に際して、Citigroupに欺かれ、高値を払わされたとして起こした訴訟で敗訴した。
Terra FirmaはEMIを40億ポンド(64億ドル)で買収したが、EMIはライバルの仏Vivendi傘下のUniversal Music、ソニー傘下のSony Music Entertainment、米Warner Music Groupに負けている。
EMIは現在、難しい状況にある。来年初めに十分な利益を出せなければ、融資を受ける際に課された負債比率に関する財務制限条項を守れないかもしれない。
ビートルズのiTunes Storeでの配信は、EMIの業績に短期的に大きな影響を与えるだろうと、事情筋は言う。
昨年、EMIがビートルズのリマスター版アルバムCDをリリースしたときには、「数千万ポンド」の利益をもたらしたという。
事情筋は、iTunes Storeでのビートルズ作品販売が同じような影響をもたらせば、EMIは3月末に制限条項違反になるのを避けられると語る。だがそのような影響は短期的でしかなく、長期的な負債の問題を解決するものではないとも指摘している。
Terra Firmaは債務契約を満たす手段として、EMIの資産売却も含めた選択肢を検討しているとみられる。