スウェーデンの王立科学アカデミーは5日、10年のノーベル物理学賞を、炭素の新素材「グラフェン」を開発した英マンチェスター大のアンドレ・ガイム教授(51)=オランダ国籍=とコンスタンチン・ノボセロフ教授(36)=英、ロシア国籍=に授与すると発表した。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金1000万スウェーデン・クローナ(約1億2700万円)を両氏が分け合う。
グラフェンは炭素が六角形につながったシート状の新素材で、厚みが原子1個分しかない。現在知られている素材の中で最も薄くて強く、銅と同程度の電気伝導性があり、熱伝導性も最も高い。 ガイム氏らは04年、炭素の蜂の巣構造が何層も重なり、鉛筆の芯の材料として使われている「グラファイト」(黒鉛)に粘着テープを張ってははがす作業を繰り返して薄片をはがし、原子1個の厚みの層(グラフェン)を分離することに成功した。グラファイトが層状構造であることは古くから知られていたが、誰も単層に分けることができなかった。 ごく薄い構造を持ったグラフェンは「驚異の物質」として、物理学や材料科学の分野で注目され、太陽電池や液晶ディスプレー、従来のシリコン製を上回る性能の半導体への応用が期待されている。 ガイム氏は00年、カエルを生きたまま磁力で浮かせる実験で、ユニークな研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」(物理学賞)を受賞している。
グラフェンとは? ベンゼン環を2次元平面に敷き詰めた6員環シートのこと。グラフェンシートとも言う。このシートを筒状に丸めたものがカーボンナノチューブ、複数枚積層したものがグラファイトである。 ベンゼン環は炭素6個と水素6個からなる六角形であり、sp2混成軌道をとっている。このため、グラフェンシートの上下には π電子が存在し非局在化している。グラファイトの場合、積層した隣同士のシートのπ電子と重なりあうことで電子がさらに非局在化し安定化する。カーボンナノチューブの場合には、グラフェンシートが丸まった構造をとり、単層となるとその曲率がさらに小さくなって、許される電子状態が幾つかに限定されることによって、量子効果を持つようになる。 このようにグラフェンは、グラファイトやカーボンナノチューブの中間素材的な存在だと見られていたが、近年グラフェンそのものに注目が集まってきた。 2006年から研究発表が急増しており、ナノサイズのトランジスタや回路を形成する「ポストSi」の有望新素材として特に米国で研究が活発化してきた。 ■グラフェン - Wikipedia
このようにグラフェンは、グラファイトやカーボンナノチューブの中間素材的な存在だと見られていたが、近年グラフェンそのものに注目が集まってきた。 2006年から研究発表が急増しており、ナノサイズのトランジスタや回路を形成する「ポストSi」の有望新素材として特に米国で研究が活発化してきた。 ■グラフェン - Wikipedia
ノーベル化学賞、根岸英一氏・鈴木章氏ら3人に スウェーデンの王立科学アカデミーは6日、今年のノーベル化学賞を、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、リチャード・ヘック・米デラウェア大名誉教授(79)に贈ると発表した。3人は金属のパラジウムを触媒として、炭素同士を効率よくつなげる画期的な合成法を編み出し、プラスチックや医薬品といった様々な有機化合物の製造を可能にした。 日本のノーベル賞受賞は17、18人目となる。化学賞は6、7人目。 業績は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」。 炭素同士をいかに効率よくつなげるかは有機化学の大きなテーマだ。その方法の一つとして、1970年代ごろから注目を集めていたのが「クロスカップリング反応」だった。この反応を使うと、二つの有機化合物の骨格を好きな場所でつなぐことができる。 ヘックさんは、有機化合物の合成にパラジウム触媒を使った方法をいち早く確立。これを根岸さんがクロスカップリングに応用し、亜鉛化合物やアルミニウム化合物を使った反応などにバリエーションを広げて、より使いやすい形に改良した。亜鉛を使うと反応が安定し、合成できる物質の種類が増えた。 さらに、鈴木さんは北海道大教授だった79年、これを汎用性の高い形に改良した「鈴木カップリング反応」を開発して、実用化に結びつけた。有機ホウ素化合物は安定な物質で、別の有機化合物を合成するための原料としては、ほとんど注目されていなかったという。「安定しているということは、扱いやすいという長所でもある。有機合成に活用できるのではないか」という逆転の発想が、世界的な発見に結びついた。 恩師のブラウン教授も同じように考え、有機ホウ素化合物とパラジウム触媒による新たな有機合成の実験を重ねていた。結局、うまくいかなかったが、留学を終えて帰国の途に就いた鈴木氏の胸には、あるアイデアがあった。 その当時、思い通りの炭素結合を可能にする物質として、高価で扱いが難しい「グリニヤール試薬」が研究者には知られていた。炭素とマグネシウムの結合を含む有機化合物で、炭素−マグネシウム結合の約34%が比較的緩い結びつきのイオン結合であると考えられていた。これに対し、有機ホウ素化合物は、最も強固な共有結合で炭素とホウ素が結びついている。 「塩基を加えてイオン性を高くしてやれば、炭素−ホウ素の結合がほどけやすくなるのではないか」 予測は見事に的中した。 発見から現在までの約30年間、より安価な手法を探る研究が全世界で進められてきた。だが、実験で扱いやすく毒性も低い鈴木氏の手法が、もっとも実用性が高いという位置づけは、まったく揺らいでいない。「スズキ・カップリング」は、有機化学の広大なすそ野にそびえる高峰であり続けている。 「クロスカップリング」反応は「世界中のありとあらゆる化学メーカーが恩恵を受けている」(三菱ケミカルホールディングス)という。 鈴木カップリング反応の製薬への応用で有名なのは降圧剤バルサルタン(商品名・ディオバン)。血圧を下げる働きが強く、広く使われる。販売元の製薬会社ノバルティス・ファーマによると昨年の国内売上高は約1400億円(薬価ベース)。日本で最も売れている薬の一つだ。 農薬では、果樹や野菜など農業で使われる独BASF社の殺菌剤ボスカリド(商品名カンタス)にも鈴木さんの反応が使われている。 液晶テレビにも欠かせない。液晶材料の製造で世界のトップシェア争いをしているチッソと、独メルク社がいずれも採用。この結果、国内外の多くの液晶テレビやパソコン用ディスプレーで使われることになった。 チッソによると、同社は1990年代半ばにTFT液晶の開発にこぎつけた際、鈴木章氏のアドバイスを受けた。鈴木カップリング反応は「ロスが少なく、コストダウンにつながった。液晶の世界が伸びた大きな役割を果たした」(広報担当)という。画質が優れた新世代の有機ELディスプレーでも、EL高分子の製造に使われている。 授賞式は12月10日にストックホルムである。賞金の1千万クローナ(約1億2千万円)は受賞者3人で分ける。 ■根岸英一(ねぎし・えいいち)氏の略歴 1935年、旧満州(中国・長春)生まれ。58年、東京大卒業、帝人入社。63年に米ペンシルベニア大で博士号取得、66年に米パデュー大研究員、79年同大教授、99年に同大特別教授。 ■鈴木章(すずき・あきら)氏の略歴 1930年、北海道生まれ。54年、北海道大理学部卒。61年に同大工学部助教授、63年に米パデュー大博士研究員、73年に北海道大工学部教授、04年に日本学士院賞受賞、09年、英化学会特別会員に選ばれる。 ■Richard F.Heck(リチャード・ヘック)氏の略歴 1931年、米マサチューセッツ州生まれ。54年、カリフォルニア大ロサンゼルス校で博士号取得。化学メーカー・ヘラクレス社を経て71年、デラウェア大へ転出し、教授を務める。