2009年の東京モーターショーで、エコブームの中、注目の高い次世代ライトスポーツカーが登場する。トヨタ自動車と富士重工業(スバル)が共同開発する小型FR(フロントエンジン・リヤドライブ=後輪駆動)スポーツカー「FT−86Concept」。 トヨタが世界で初めて東京モーターショーに参考出品すると発表してから、国内外のメディアが速報するなど、インターネットでは早くも「ハチロク」ファンの期待を示す膨大な書き込みが毎日行われ、その期待を裏付けるように正式発表前から自動車雑誌の表紙を飾るなど、メーカーも積極的にアピールを繰り返している。
この反響の大きさには理由がある。このクルマは往年の名車、1983年に登場し、87年に生産中止となった後輪駆動のレビン、トレノの「ハチロク」の「復活」だからだ。車名の「86」は、共通車台番号が「AE86型」ということから俗に「ハチロク」の愛称で呼ばれている。 90年代後半からは「頭文字D(イニシャル)」という漫画に登場してからは、日本のみならず米国でも新たなファンを生み、中古車はプレミア価格が付いている。操縦性は高いが安価なスポーツカーとして、生産中止となって久しい今なお根強いファンを持っている。 そんな伝説の名車を復活させる背景には、国内市場の縮小と、その一因である若者のクルマ離れに歯止めをかける狙いがある。
ハイブリッドカーのプリウスや小型車ヴィッツなどでは成功を収めるトヨタだが、若者のクルマ離れを食い止められず、将来的な市場縮小が経営課題となっていた。そこでトヨタが考えたのが、資本提携したスバルの活用だ。スバルを収益性の低い軽自動車の自主開発から撤退させる一方で、独自の水平対向エンジンや四輪駆動のコア技術を活用し、レガシィやインプレッサとは一味違うスポーツカーを共同開発するというものだ。
しかも、開発の主導権を握るのは、クルマ好きで知られ、レーサーでもある豊田章男社長だ。この社長直轄プロジェクトのため、08年秋のリーマン・ショック後の不況下でも、この共同開発がストップすることはなかった。豊田社長は社長就任前から開発の指揮を執り、次世代スポーツカーにふさわしい燃費の実現など、開発の要求レベルは高いという。
この共同開発車は安価で軽量なハチロクの後継モデルと目され、これまでに自動車雑誌だけでなく、朝日新聞が朝刊1面でスクープした経緯がある。スバルがトヨタ傘下で「日本のポルシェ」、すなわちスポーツカー専業メーカーになるとの報道も、あながち的外れではないことが、今回の参考出品車の登場で証明されたといえる。 ■ホンダも「CR−X」の後継モデルスポーツカー 今回の東京モーターショーには、ホンダも次世代スポーツカーとしてハイブリッドカー「CR−Z」を参考出品する。このクルマもネーミングから連想できるように、往年の同社のスポーツカー「CR−X」の後継と目されるモデルだ。ホンダは現行インサイトのエンジンを拡大し、モーターの出力を高めることなどで、ハイブリッドカー初のスポーツモデルを仕上げた。 トヨタのFT−86Concept、ホンダのCR−Zとも市販は確実。トヨタとスバルが共同開発するハチロク後継モデルについては、FT−86Conceptのほかにも、スバルが市販に向け開発中のバージョンもある。今回の出品には間に合わなかったが、関係者によると「開発は順調に進んでいる。今回、トヨタが参考出品するクルマとは異なる」というだけに、ファンの期待は高まる。
今回の東京モーターショーは海外メーカーの多くが出展を取りやめたことで、退潮ムードが取り沙汰されるが、ハイブリッドカー、電気自動車など次世代技術に加え、次世代スポーツカーが提案されるなど、日本メーカーの出展は意欲作に満ちている。 ■Amazon:頭文字D (ヤングマガジンコミックス) しげの 秀一