ノーベル平和賞にオバマ米大統領「核なき世界」に全世界が期待している
委員会は授賞理由を「国際的な外交と諸国民の協力を強めることに対して並はずれた努力をした。特に『核なき世界』を目指すとする理念と取り組みを重視する」とした。
そのうえで、多国間外交、「核なき世界」、気候変動問題でオバマ氏は国際政治の新しい状況を生み出したと評価。多国間外交では「国連やほかの国際機関の役割の重要性を主張し、多国間の協調を再び世界の外交の中心に取り戻させた」ことや、問題解決の手段として対話と交渉に重きを置く姿勢をたたえた。
「核なき世界」の理念と行動については「軍縮交渉の流れに力強い刺激を与えた」とし、気候変動問題では「オバマ氏の指導力によって、世界が直面する気候変動問題で、米国がより建設的な役割を果たすようになった」と評価した。
バラク・オバマ米大統領は、就任間もない4月、チェコ・プラハでの演説で「核兵器を使用した唯一の国」としての米国の道義的責任に触れ、「核なき世界」を目指す考えを表明した。
その後、ロシアとの核軍縮交渉に着手する一方、9月には「核不拡散と核軍縮」をテーマにした国連安全保障理事会の首脳会合を主宰し、「核兵器のない世界」を目指す歴史的な決議を全会一致で採択に導いた。
ホワイトハウスのギブズ報道官が9日午前6時直前にオバマ大統領に電話でノーベル平和賞授賞を伝えたという。周辺は「大統領は恐縮している」と語ったという。
今年の平和賞は全世界から推薦された計205の個人・団体の中から選ばれた。授賞式は12月10日にオスロである。賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億3千万円)。
委員会は最後に「ノーベル委員会は『今こそ私たち全員が、グローバルな課題に対してグローバルな対応をとる責任を共有する時だ』とのオバマ氏のアピールを支持する」と締めくくった。
President Obama The Nobel Peace Prize for 2009
本委員会は国際的な外交と諸国民の協力強化に向けたオバマ大統領の比類なき努力を理由に授賞を決めた。とりわけ「核兵器のない世界」の構想とそれに向けた取り組みを重視した。
オバマ氏は国際政治に新たな環境をもたらし、国連をはじめ国際機関の役割を重んじる多国間外交が中心的な位置を回復した。困難な国際紛争の解決手段として対話と交渉が優先される。「核兵器のない世界」を目指す構想は、軍縮交渉を力強く促した。オバマ氏の主導で、米国は今や、世界が直面する気候変動問題でより建設的な役割を演じている。民主主義と人権は強化されよう。
オバマ氏ほど、世界の注意をひきつけ、よりよい未来に向けて人々に希望を与えた人はめったにない。彼の外交は、世界を主導する者は世界の大多数の人々が共有する価値と態度に基づいて行動しなければならないという考えに立脚している。
本委員会は108年間、オバマ氏が今まさに提唱する国際的な方針を促すことを目指してきた。「今は、地球規模の課題に対処するため、我々全員が応分の責任を果たすときだ」とのオバマ氏の訴えを支持する。
The Norwegian Nobel Committee has decided that the Nobel Peace Prize for 2009 is to be awarded to President Barack Obama for his extraordinary efforts to strengthen international diplomacy and cooperation between peoples. The Committee has attached special importance to Obama's vision of and work for a world without nuclear weapons.
Obama has as President created a new climate in international politics. Multilateral diplomacy has regained a central position, with emphasis on the role that the United Nations and other international institutions can play. Dialogue and negotiations are preferred as instruments for resolving even the most difficult international conflicts. The vision of a world free from nuclear arms has powerfully stimulated disarmament and arms control negotiations. Thanks to Obama's initiative, the USA is now playing a more constructive role in meeting the great climatic challenges the world is confronting. Democracy and human rights are to be strengthened.
Only very rarely has a person to the same extent as Obama captured the world's attention and given its people hope for a better future. His diplomacy is founded in the concept that those who are to lead the world must do so on the basis of values and attitudes that are shared by the majority of the world's population.
For 108 years, the Norwegian Nobel Committee has sought to stimulate precisely that international policy and those attitudes for which Obama is now the world's leading spokesman. The Committee endorses Obama's appeal that "Now is the time for all of us to take our share of responsibility for a global response to global challenges."
Oslo, October 9, 2009
■過去20年のノーベル平和賞受賞者
(1989年からのもの。肩書は当時、敬称略)
89年 ダライ・ラマ14世(チベット仏教指導者)
90年 ミハイル・ゴルバチョフ(ソ連大統領)
91年 アウン・サン・スー・チー(ミャンマー民主化運動家)
92年 リゴベルタ・メンチュ(グアテマラ先住民人権運動家)
93年 フレデリク・デクラーク(南アフリカ大統領)、ネルソン・マンデラ(アフリカ民族会議議長)
94年 イツハク・ラビン(イスラエル首相)、シモン・ペレス(イスラエル外相)、ヤセル・アラファト(パレスチナ解放機構議長)
95年 パグウォッシュ会議、ジョゼフ・ロートブラット(同会議会長)
96年 カルロス・ベロ(東ティモール宗教指導者)、ジョゼ・ラモス・ホルタ(東ティモール独立運動家)
97年 地雷禁止国際キャンペーン(NGO)、ジョディ・ウィリアムズ同世話人
98年 ジョン・ヒューム(北アイルランド・社会民主労働党党首)、デービッド・トリンブル(同・アルスター統一党党首)
99年 国境なき医師団
2000年 金大中(韓国大統領)
01年 国連、アナン同事務総長
02年 ジミー・カーター(米元大統領)
03年 シリン・エバディ(イラン人権活動家)
04年 ワンガリ・マータイ(ケニア環境活動家)
05年 国際原子力機関(IAEA)、ムハンマド・エルバラダイ事務局長
06年 グラミン銀行、同銀行創設者のムハマド・ユヌス
07年 アル・ゴア元米副大統領と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
08年 マルティ・アハティサーリ(元フィンランド大統領)
ノーベル物理学賞 光ファイバー通信の研究とCCD(電荷結合素子)開発
2009年のノーベル物理学賞はチャールズ・カオ博士の光ファイバー通信の研究と、ウィラード・ボイル、ジョージ・スミス両博士のCCD(電荷結合素子)開発に贈られる。ともに通信インフラやデジタル機器の基盤技術。基礎的な研究の芽は米英で生まれたが、性能向上と世界的な普及に大きな役割を果たしたのは日本企業だ。
光ファイバー通信では、「カオ博士が現在広く普及する光通信の創始者といえ、情報損失を抑制できることを理論的に予言した」(東北大学の中沢正隆教授)。米コーニングが情報損失が小さい光ファイバーを実際に開発、世界の企業の開発競争に火が付いた。
しかし同社などが本格的な実用化にてこずる中、1980年代初めに当時の日本電信電話公社(現NTT)茨城電気通信研究所の伊沢達夫氏(現東京工業大学副学長)らが1キロメートルあたりの情報損失が世界最小の光ファイバーの作製に成功。石英の結晶から安く大量生産できる製造手法も開発した。その後、古河電気工業などが安価な大量生産技術を実現し普及を加速した。
ノーベル文学賞はドイツの女性作家ミュラーさん
スウェーデン・アカデミーは8日、2009年のノーベル文学賞をドイツの女性作家ヘルタ・ミュラーさん(56)に授与すると発表した。
「濃密な詩と、散文の率直さにより、疎外された人々を描写した」ことが授賞理由となった。賞金は1000万クローナ(約1億3000万円)。授賞式は12月10日に行われる。
ミュラーさんは1953年、ルーマニア西部バナート地方でドイツ系家庭に生まれた。父親は第2次大戦中、ナチス武装親衛隊で兵役を務め、母親は45年にソ連の収容所に連行された。
ティミショアラ大学でドイツとルーマニアの文学を学ぶ間、チャウシェスク大統領の独裁に反発し、言論の自由を求める運動に参加。工場の翻訳者となったが、秘密警察への情報提供を拒んで解雇され、失職。こうした体験を作品に投影した。
ルーマニアの小さなドイツ系社会における腐敗や不寛容、抑圧などを題材にした短編集「泥沼の世界」を82年に発表。ルーマニアでは検閲対象となったが、検閲前の版がドイツ語圏で高く評価された。
84年には作風を危険視した当局がミュラーさんの国内での出版活動を禁止。このため、87年に夫と西独へ移住した。その後も「緑の梅の土地」(94年)などで独裁下の民衆の窮状を描いた作品を発表。ヨーロッパ文学賞など多くの文学賞を受賞した。
日本では「狙われたキツネ」(92年)が翻訳されている。
ノーベル化学賞、英・米・イスラエルの3氏に
スウェーデン王立科学アカデミーは7日、2009年のノーベル化学賞を、英ケンブリッジ大MRC分子生物学研究所のベンカトラマン・ラマクリシュナン博士(57)、米エール大のトーマス・スタイツ教授(69)、イスラエル・ワイズマン科学研究所のアダ・ヨナス教授(70)の3人に贈ると発表した。
授賞理由は「(細胞内にある)リボソームの構造と機能の研究」。賞金は1000万スウェーデン・クローナ(約1億3000万円)で、3人で等分する。授賞式は、12月10日にストックホルムで行われる。
リボソームは、生命の設計図であるデオキシリボ核酸(DNA)の情報から、たんぱく質を作り出す「合成工場」だ。
酸素を運ぶヘモグロビンや、免疫をつかさどる抗体、肌のコラーゲンなど、数万種にのぼるたんぱく質は、すべてリボソームが作り出す。たんぱく質は、体内でそれぞれ化学的な役割を担い、生命活動を支えている。
リボソームはさまざまな物質が組み合わさってできた複合体であり、構造を突き止めるのが非常に難しかった。3人は、X線結晶解析という手法を使い、リボソームの立体構造を原子レベルで解明、2000年に発表した。
抗生物質の多くは、病原菌のリボソームを標的にしている。3人は、抗生物質がリボソームに作用し、その働きを止めてしまう仕組みも明らかにした。東京大学の濡木理(ぬれきおさむ)教授は「彼らの業績により、新しい抗生物質の開発に道が開かれた」と話している。
ベンカトラマン・ラマクリシュナン氏 インド生まれ。米国籍。米オハイオ大で博士号取得。米ユタ大教授などを歴任。
トーマス・スタイツ氏 米国生まれ。米ハーバード大で博士号取得。ハワード・ヒューズ医学研究所研究員を兼任。
アダ・ヨナス氏 イスラエル生まれ。ワイズマン科学研究所で博士号取得。独マックスプランク研究所研究部門長などを歴任。
ノーベル生理学・医学賞にブラックバーン氏ら3氏
スウェーデンのカロリンスカ研究所は5日、2009年のノーベル生理学・医学賞を、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のエリザベス・H・ブラックバーン教授(60)、米ジョンズ・ホプキンス大学のキャロル・W・グライダー教授(48)、米ハーバード大学のジャック・W・ゾスタク教授(56)の3人に贈ると発表した。
自然科学3賞で女性2人が同時受賞するのは初めて。
授賞理由は「テロメアとテロメア合成酵素による染色体保護の仕組みの発見」。
テロメアは細胞内にある染色体の末端部分に位置する配列で、細胞が分裂するたびに短くなっていくが、テロメア合成酵素はテロメアの長さを元に戻す働きがある。3人が明らかにしたテロメアとテロメア合成酵素の働きはその後、老化やがん、遺伝病の一部に深いかかわりがあることが判明し、新たな治療法開発への道を開いたことが評価された。
ブラックバーン、ゾスタク両教授は1982年、テロメアが染色体を劣化しないよう守っていることを発表した。グライダー教授はブラックバーン教授とともに、テロメア合成酵素を84年に発見した。賞金は1000万スウェーデン・クローナ(約1億3000万円)。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。
エリザベス・ブラックバーン氏 48年、オーストラリア生まれ。メルボルン大を卒業後、英ケンブリッジ大で博士号取得。米カリフォルニア大バークレー校准教授を経て現職。
キャロル・グライダー氏 61年、米国生まれ。米カリフォルニア大バークレー校で博士号取得。米コールド・スプリング・ハーバー研究所研究員を経て現職。
ジャック・ゾスタク氏 52年、英国生まれ。米コーネル大で博士号取得。ハーバード大准教授を経て現職。ハワード・ヒューズ医学研究所研究員などを兼任。
ノーベル経済学賞、米国の大学教授2氏
スウェーデン王立科学アカデミーは12日、2009年のノーベル経済学賞を、経済分野における政策分析などで功績をあげた米インディアナ大のエリノア・オストロム教授と、米カリフォルニア大バークレー校のオリバー・ウィリアムソン教授の2人に授与すると発表した。
オストロム氏は、牧草地や森林、湖などの共有資源の保護・運営に焦点をあてた研究が評価された。かつては当局から規制されたり、持ち主がはっきりしていないと荒れてしまうと考えられたりしていたのに対し、オストロム氏は資源を使う人たちが自分たちで規則をつくって利害調整をすることを観察し、うまく運営されることが多いと結論づけた。女性初の経済学賞受賞者となった。
オストロム氏は電話会見で、地球温暖化抑制への取り組みについて「多くの人が国際交渉で問題が解決されるのを待っているが、これは政府高官が私たちより優秀だという仮定に基づいている。国際的な合意も大切だが、家族や地域でできることがある。積み重なれば大きな力になる」と語った。
ウィリアムソン氏は、利害対立を調整する仕組みとしての企業に焦点をあてた研究が評価された。市場には意見の対立を解消できないという欠点があり、企業には利害調整に上層部の権限が乱用されるという問題点を指摘した。
両氏とも、効率的な市場を前提に人間が経済的な計算に基づいて行動するとみなしてきた主流派経済学とは異なる立場から選ばれた。
賞金は1千万スウェーデンクローナ(約1億3千万円)で、2人で折半される。経済学賞はノーベル賞創設につながったアルフレッド・ノーベル氏の遺言にはなかったが、スウェーデン銀行が創立300年を記念して新設を働きかけ、69年に授与が始まった。
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The Nobel Prize(英語) - Nobelprize.org