6時間の睡眠で元気を回復する人もいれば、毎日8時間は取らないと疲れがたまり活動が鈍る人もいる−。この理由をある母娘の特殊な遺伝子変異によって説明できる可能性があることが、米カリフォルニア大学の研究で分かった。
カリフォルニア大学のイン・フイ・フー教授(神経学)の研究チームが約1000人を対象に調査した中で、午後11時に就寝し、翌朝午前5時に元気に目覚めるこの母娘2人だけに、特殊な遺伝子変異が見られたという。 米国立衛生研究所(NIH)によれば、米国では5000万〜7000万人が睡眠障害や睡眠不足に苦しんでおり、医療費は約150億ドルに上り、約500億ドルの生産性が失われているという。 フー教授は電話インタビューに対し、今回の研究は、睡眠の欲求をつかさどる脳の複雑なメカニズムの解明に役立つ可能性があると話した。研究の詳細は今月中旬の英科学誌ネイチャーに掲載された。 同教授は「睡眠が生きる上で重要なことは分かっている。十分な睡眠を取らない人に健康の問題が多いことも分かっている。6時間の睡眠で健康で快適な毎日が送れるよう脳の経路を制御する医薬品が見つかるかもしれない」と語った。 同教授らはまず、人間の日周リズムをつかさどる遺伝子の一部を突き止めた。この研究が広く知れわたり患者や医師からの問い合わせが増えたため、睡眠パターンが異常な人のDNAサンプルの収集・スキャンを開始した。その過程で「DEC2」と呼ばれる遺伝子の変異を共有するこの母娘の睡眠時間が、他の人より短くて済むことが分かったという。 原因がDEC2にあるかどうかを確認するため、同じ変異遺伝子を持つマウスやハエの研究を実施。その結果、DEC2を持つマウスやハエも少ない睡眠時間で元気に過ごし、たとえ睡眠が妨害されてもすぐに回復することが分かった。また、マウスを脳スキャン装置にかけたところ、通常より睡眠時間が少ない場合でも睡眠が十分に取れている脳波パターンを示したという。 フー教授は、個々の遺伝子パターンによって各自が必要とする睡眠時間は異なると指摘。「生まれつき肉体的に6時間の睡眠時間を必要とする人がいる一方で、それ以上の睡眠を必要とする人も大勢いる。DEC2の研究を進めることで、なぜこの母娘が短い睡眠時間で元気に過ごせるのかが解明できる」と述べた。