近い将来、ガジェットや飛行機、自動車はより強く軽くなり、エネルギー効率も向上するだろう――素材科学者たちが偶然に発見した「バッキーペーパー」によって。 バッキーペーパーは、薄さが人間の頭髪の5万分の1以下のカーボンナノチューブ分子からなるもので、[銅やシリコンのように]電気を通し、[鉄や真鍮のように]熱を拡散させるユニークな性質を持つ。
[積み重ねて圧力をかけることで複合素材を作ると、]鋼鉄に比べて強度は500倍、軽さは10倍になるというこの物質については、持てる可能性を最大限に活かすような方法がまだ開発されていない。 しかしAP通信の記事によると、フロリダ州立大学の研究チームが先ごろ、この取り組みを大きく進展させた、との発表を行なったという。 「これが製品化されれば、航空宇宙産業の勢力図を大きく塗り替えるような、革命的な技術になる可能性が十分にある」と、同研究のスポンサーを務める米Lockheed Martin社のMissiles and Fire Control部門の技術責任者、Les Kramer氏は話す。 1985年、米国ライス大学の研究チームは、恒星が炭素を作り出す過程を調べる実験中に、バッキーペーパーの基になるものを思いがけず発見した。見つかったのは60個の炭素原子からなる球状の構造[フラーレン:多数の炭素原子で構成されるクラスターの総称]で、「バッキーボール」と命名された。 その後、アリゾナ州立大学の研究者らが、フラーレンの1種にも分類される円筒状の構造、カーボンナノチューブが、互いにくっつき合い、小さな薄膜を形成できることを発見した。これがバッキーペーパーと呼ばれるものだ。
バッキーペーパーのシートを積み重ねて圧力を加えることで複合素材を形成できるが、この工程には困難がある。しかしフロリダ州立大学の研究チームは、商業的に採算が取れ、競争力のある製造工程をまもなく開発できそうだという。 同大学は、ナノチューブを積み重ねる際に強力な磁力にさらしてそれぞれのチューブの方向を揃えることで、強度を確保する方法を開発した。現在、最も強力な複合素材である『IM7』の半分の強度がある素材が作成できているが、来年には同じ強度で35%軽量なものを開発できるとしている。バッキーペーパーを商業的に生産するための企業が、同大学からスピンアウトする初期段階にあるという。