スピード社の水着で出場は「契約違反になる」
「ここまで違うと、このままオリンピックに行くのは大変危険です。道具の違いで結果が変わってきたら大変です。100mで0.5秒上がれば、(中村)礼子は59秒4、(北島)康介は世界記録」
NASAが研究した素材をファスナーなどに使用
国内で「レーザーレーサー」を扱っているゴールドウィン・スピード事業部の担当者は、他社製の競泳水着について、「縫製を見た瞬間うちのほうが絶対勝てると思った」と話す。
「レーザーレーサーは、これまでの水着とコンセプトが全く違います。この水着が08年2月12日に発表されてから、この水着で35個の世界新記録が出ましたが、出て当たり前の結果です」
同社によれば、「レーザーレーサー」は、体を強く締め付け体の体積を減らすことで水の抵抗を減少させたほか、継ぎ目を超音波で溶着した「縫い目がない」素材を使用しているため水をほとんど吸収しない。さらにNASA(米航空宇宙局)が研究したポリウレタン素材のパネルをファスナーなどに使用し、水の抵抗を極限まで減らしているという。国内メーカーが現在取り組んでいるのは、水の抵抗を減らす表面加工を施すぐらい、というのが現状のようだ。
2008/04/13
LZR RACER着用のライアン・ロクテ(アメリカ)が、短水路男子100m個人メドレーで、自身が12日に行われた同種目の準決勝で樹立した世界記録を塗り替え51.15(0.1秒更新)の世界新記録を達成! 〜2008 世界短水路選手権(マンチェスター)
2008/04/13
LZR RACER着用のサニャ・ヨバノビッチ(クロアチア)が、短水路女子50m背泳ぎで、自身が2007年に樹立した世界記録を塗り替え26.37(0.13秒更新)の世界新記録を達成! 〜2008 世界短水路選手権(マンチェスター)
2008/04/13
LZR RACER着用のマルレーン・フェルドハゥス(オランダ)が、短水路女子50m自由形で、自身が2007年11月に樹立した世界記録を塗り替え23.25(0.33秒更新)
「レーザーレーサー」はヨーロッパの工場で1日70枚しか製造できない。
「無縫製」の素材を作るのが非常に困難なため。スピード社はこの水着の開発に3年以上を要しているが、北京五輪まではあと3か月。「コンセプトが全く違う」水着を新たに生み出すことは不可能に近い。海外のライバル選手が「レーザーレーサー」を着用、日本選手の不利は変えようがないのだろうか。
スピード社とライセンス契約を結ぶゴールドウィン社によると、スピード社は既に記録を連発している水着「レーザーレーサー」作製のための複数の技術の特許を取得済み。そのため、ゴールドウィン関係者は「残り3か月では同じ物は作れない」と口にした。
水泳連盟、違約金払ってでもスピード社水着熱望!
代表選手は水連と契約するミズノ、アシックス、デサント3社以外の水着を五輪で着ることは契約上はできないが、五輪で予告なしに当日の競技だけスピード社の水着で出場する選手が現れる可能性を示唆した。
スピード社と3社の水着とでは明らかに違う。不平等なのは事実。契約があるから違約金もある。でも、選手としては1億円の違約金よりもメダルと言い切る。
東京都内で合宿している日本代表選手数人が、スピード社の水着を初めて試着したところ、練習議着用時に比べて25メートルで0.5秒前後速いタイムが出たのだという。一部報道によれば、選手からは「全然違う」「ハンディを負ってしまう」といった声までが上がったというのである。
日本水連はミズノ、アシックス、デサントの3社と契約しているため、日本選手はスピード社の水着を着用して北京五輪に出場することができない。日本水連は、代表選手がスピード社の水着で出場した場合、「契約違反になる」との見方を示した上で、
「契約が残っている。現状でアナウンスできることはない」
関係者も「3社とオフィシャルサプライアー契約を結んでいる以上、何とも言えない」と漏らしている。「解決方法としては、3社に企業努力を求めるのが筋です。さて、どうなることやら」と綴っているように、日本チームとしては3社のこれからの開発努力に期待するしかないというのが実情だ。
3メーカーはスピード社の水着にどう立ち向かうのか?
「今回に限らず選手の要望を取り入れ、改良を繰り返している。今後できる範囲で改善したい」(デサント)
「選手の希望があれば、情報交換して取り入れ、協力したい」(ミズノ)
「今後は、代表選手たちと意見交換を行って、より体にフィットできるようサイズを調整したり、コアバランスの位置を確認したりするなど、より綿密にコミュニケーションを図り、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートしていきたい」(アシックス)
デサント北京五輪に新開発の競泳用水着「シン_レボリューション」発表
従来の同社の競泳用水着は表面の流水抵抗を軽減することを主眼に作られてきたが、シン_レボリューションは泳ぐ人の投影面積(進行方向の正面から見た面積)を小さくすることで、水の抵抗を減らして速度を上げる、いわば「やせる水着」。腹筋、背筋、大でん筋などの筋肉構造に合わせて素材を配置することで、力が出やすく、「体に芯が通った」泳者は最適な姿勢を維持できるという。
柴田選手は「水に入った時にぎゅーっという収縮感があり、体が小さくなる気がします」と「シン_レボリューション」の感触を語った。
ミズノ五輪連覇へ新水着 “世界最速”カジキがヒント
ミズノは、今季に入って世界新記録を連発している「スピード社」と昨年11月末にブランド契約を解消しており、北京五輪は独自開発した「カジキ水着」で勝負する。
新水着は、「世界最速の魚」としてギネスブックに認定されているカジキマグロにヒントを得た製品、カジキマグロが体の表面から水になじみやすい物質を出して、抵抗を減らしている。
水に触れるとジェル化する特殊素材を使用し、時速100キロ超で泳ぐカジキがぬめりのある物質を分泌、抵抗を減らしている原理に着目。魚を触った際の「ヌルッ」とした感触を追求し、従来の同社製比で水との摩擦抵抗を約8%軽減したという。
日本競泳陣に朗報!スピード社水着着られる!?
メダルへの光が見えてきた。関係者によると、日本水連のオフィシャルサプライヤー3社との契約の中に、4社目との契約を認めない項目は無く、違約金も発生しない。
過去には、契約メーカー以外の水着を強行着用した例もある。最も有名なのは、88年ソウル五輪男子背泳ぎの鈴木大地氏だ。大会前まであるメーカーと契約を結んでいたが、「はき心地が良い」などと本番で他社の水着を強行着用、百メートルで金メダルをつかんだ。
NASAと共同開発したスピード社に、従業員73人の大阪の町工場が真っ向勝負。
競泳界では無名の山本化学工業(複合特殊素材メーカー)だが、トライアスロンやオープンウオーター(遠泳)の世界では知られる有名企業。しかもハリウッド映画「バットマン」「トゥームレイダー」の衣装に素材が使われるなど技術力には定評がある。
6年前に世界のスイム・メーカーの依頼を受けて、アウトドア用の水着素材開発に着手していた。表面に水の分子を吸いつけるラバー加工を施して、低抵抗性を実現した「バイオラバースイム=SCSファブリック」を完成させている。
スピード社上回る効果!?競泳日本に新素材
スピード社のスイムウェアも撥水(はっすい)性の高さで有名だが、山本化学工業の複合特殊素材も水が全く浸透しないため水中でも重さが変わらない。ウエットスーツでは世界70%以上の有名ブランドに使用されている山本化学の水着は、その技術を応用したハイテク水着。
素材表面はハチの巣状にタコヤキ器のような丸い穴があいた“タコヤキ・ラバー”で、同社によると、水の抵抗を著しく減らし、効果はスピード社製を上回るという。ニュージーランドのメーカーがこの素材を使った水着で国際水連の認可を取っている。
4月上旬に関大で行ったテストでは、選手から「体が浮く感じがすると言われた」と森本雅彦執行役員。関大水泳部員4人が2度ずつ計8回、自由形とバタフライ50メートルのタイムを計測。各選手が自己記録を0・7秒〜1・3秒アップしたデータがある。スピード社と同じように浮力を感じる水着だという。
昨年10月に日本水連と契約するミズノ、アシックス、デサントの3社に素材のプレゼンテーションを3社に行ったが、自社開発にこだわる各社から、素材の提供を求める声は上がらなかった。だが、今回は逆に3社から別々に素材の提供を求められ、9日にテスト用素材の納品を済ませた。スピード社に匹敵する水着の開発を今月30日までに求められた3社が、新たな素材を開発することは時間的に困難。日本水連がスピード社を承認する可能性も残されており、大手3社がいったん断った中小企業に頼る異例の事態となった。