米大リーグ、オールスターゲームが11日(日本時間)、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地AT&Tパークで行われる。今回のオールスターは、日本人選手過去最多タイの3人が出場。7年連続出場の金字塔を打ち立て、今回もファン投票での選出となったマリナーズのイチロー、クローザーとして監督推薦で選ばれたドジャースの斎藤隆、「32番目の男」で滑り込んだレッドソックスの岡島秀樹と、いずれも今季絶好調の日本人プレーヤーが夢の球宴出場を果たすことになる。イチローの“スピード”、斎藤の“スピリット”、岡島の“チェンジアップ”と、3人の持ち味を大舞台で発揮することができるか。
注目は日本人選手ばかりではない。今季、メジャー通算本塁打記録755本の更新まで、あと5本に迫るバリー・ボンズも、3年ぶりにオールスターに戻ってくる。しかも、地元サンフランシスコでの試合とあって、本人もやる気満々。お得意の「スプラッシュヒット」で、ファン投票での恩返しを果たしたい。
そのほかでも、A・ロッドことアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)とプリンス・フィルダー(ブルワーズ)、ア・ナ本塁打王のアーチ競演やジャスティン・バーランダー(タイガース)とビリー・ワグナー(メッツ)のスピード対決など、見どころは尽きない。超一流の力と技が集結するオールスター。見逃す手はない。
イチローが自慢の打撃センス、足を夢舞台で見せつけた。第1打席にピービー(パドレス)からライト前ヒットを放つと、第2打席ではシーツ(ブルワーズ)からレフト前ヒット。オールスター7度目の出場で初のマルチヒットを記録した。
5回表
・ナ・リーグは5番手ヤングに投手交代。
8:ロバーツ フルカウントからの6球目、高めの球を見送って四球。
9:ポサダ 投手ベケットに代わり、ポサダが打席へ。
1ストライク1ボールからの3球目、高めの球を振りぬいて、センターフライ。
1:イチロー 初球、真ん中低めのストレートをものの見事にとらえ、ライトフェンス直撃!
打球が転々とする間に、ランニング本塁打となる。
2:ジーター 初球を打ち上げ、センターフライ。
3:モルノー 1ストライク1ボールからの3球目を打ち上げ、ライトフライ。
・イチローがオールスター史上初のランニング本塁打を決めて、ア・リーグが逆転した。
圧巻は第3打席。ヤング(パドレス)から真ん中よりの甘い速球をとらえると、打球はライトフェンスに直撃。打球が転々としている間にイチローは快速を飛ばして、ホームへ突入し、見事にランニングホームランを達成した。この直後の5回裏に「お役ご免」でベンチに退いている。
イチローは1回に右前打、3回の第2打席でも左前打を放ち、3打数3安打2打点と活躍。米移籍1年目から7年連続出場の球宴で複数安打をマークしたのは初めて。
9回は、裏緊張のシーンの連続
・ア・リーグは7番手プッツがマウンドへ。
6:ホリデー 2ストライク1ボールからの4球目、高めのストレートに空振り三振。
7:マッキャン 2ストライク1ボールからの5球目を打ち上げ、ショートフライ。
8:ヤング 投手ホフマンに代わってヤングが打席へ。2ストライク1ボールからの5球目を打ち、セカンド内野安打!
9:ソリアーノ 1ストライク3ボールからの5球目をとらえ、ライトスタンドへ飛び込む2ラン!
1:ハーディー 1ストライク3ボールからの5球目、外角低めの球を見送って四球。
・ア・リーグは8番手としてF・ロドリゲスを投入。
2:リー フルカウントからの7球目を見送って、四球。
3:ハドソン 1ストライク3ボールからの5球目、明らかなボール球を見送って四球。2死満塁となる。
4:ロワンド 1ストライクからの2球目を打ち上げてしまい、ライトフライ。
・ア・リーグが5−4で勝った。
「レストランの予約をしていたので…」
「フェンスを越えたかと思ったので、いかなくてショックでした」
試合後の記者会見でイチローはそういって場内の笑いを取った。しかし、越えなかったからこそ見せ場が生まれ、イチローはオールスターゲーム史上初のランニング本塁打を放った選手として記憶され、同時に見る者すべてに、その類(たぐい)まれな才能を再認識させることになったのだ。
「レストランの予約をしてあったので(試合の途中で)帰ろうとしたら、MVPの可能性があるという理由で関係者からストップがかかった。最後まで残っていたら、面白いことに、どんどん(MVPが)欲しくなった。最後はドキドキした」
イチローらしい受賞の言葉だった。クローザーとして登板した同僚のJ・Jプッツが乱れ、5−4の1点差に詰め寄られ、慌ててリリーフに立ったフランシスコ・ロドリゲスも制球が定まらずに四球を連発。最後は満塁にまでされた。イチローはそのことを言ったのだ。
イチロー契約5年110億円…“生涯マリナーズ”誓う
マリナーズはイチロー外野手(33)と、2012年まで契約延長したことを発表した。各メディアによると5年総額9000万ドル(約110億円)で、年平均1800万ドル(約22億円)は歴代4位。従来の1番打者の枠を超えているイチローへの、評価の高さを証明した大型契約となった。試合前に記者会見したイチローは、「5年後は10年契約を結べるようになりたい」と、現役で48歳までプレーする“生涯マリナーズ”を誓った。
生涯マリナーズ宣言。イチローが野球人生最大の決断を下した。「ひとつのチームで長い間プレーすることは、多くのプレーヤーができることではない。その可能性を与えてくれたことに大変感謝しています。今季残りを考えれば5年半、思いっきりやって、あと10年(の契約)を勝ち取りたい」契約満了となる2012年は38歳でプレーし、10年後は48歳。50歳まで現役を目指す背番号51の決意表明だった。
今季でマ軍との4年契約は切れる。迷い悩んだ末の結論だった。「この街に来たらどうなるだろうと、遠征先のベッドに入ったときにも考えることってある」ヤンキースやカブスなど強豪と対戦の際、ファンや地元メディアから“イチロー待望論”が聞こえてくることが何度もあった。「『来年はウチのチームに来てくれ』と。正直、心が動いた時期もありました。日本に戻ってきてくれとも、たくさん聞きました」それでも最終的に心に強く、重く響いたのは、地元ファンの「シアトルに来年も残ってくれ」というストレートな言葉だった。
球団史上初のワールドチャンピオンを本気で狙っている。「この2〜3年、苦労してきたチームがようやく実り始めた。今後5年というのは十分に可能性のあるチームで、あり続けることができると思っています」その思いがチームメートにも伝わっていることも確信した。「野球に対する価値観が全く伝わらないのはツラい。幸いこのチームには何人か価値観を共有できる人がいるので、確かに僕の大きな助けになった」だからこそ残留を選択できた。
勝利を渇望する集団への変貌(へんぼう)。“イチローイズム”は確実に浸透しつつある。クラブハウスで隣のイバネス外野手は「職業観や入念な準備をする部分を最も尊敬している」と語り、城島健司捕手も「マリナーズを選んだのはイチローさんがいるからと言っても過言ではない。素晴らしい選手を近くに感じて1年でも長く野球をやれるというのは、プレーヤーとしても非常に大事」と目を輝かせて喜んだ。
この日の試合前、「イチローがシアトルを2012年までホームと呼ぶことになった」との掲示とともにスタンドのファンにあいさつした。「よろしくお願いします、お手柔らかに」大歓声の中、かつてないほど、深々とお辞儀をした。シアトルとイチローがひとつになった。