潮流にのって漂う優雅な“ミズクラゲ”、“エチゼンクラゲ”も、日本の沿岸で大量に発生すると大きな被害をもたらします。ミズクラゲは、海水を活用する原子力・火力発電プラント、臨海プラントなどの取水を止め、プラントの機能の低下をもたらし、巨大クラゲの代名詞で知られるエチゼンクラゲは定置網や底曳き網などの漁業に大きな被害を与えてきました。この災いをもたらし続ける“ミズクラゲ”、“エチゼンクラゲ”を、益をもたらす有用資源にかえるという注目すべき研究成果が生まれました。
日本海で大発生が問題になっているエチゼンクラゲから、抗菌や保湿作用を持つとみられる新物質を、理化学研究所などのグループが発見した。大量に抽出でき、医薬品や化粧品などの材料として実用化を目指す。実現すれば、漁業被害や処理に苦労する沿岸各地にとっても朗報となりそう。成果は1日付の米化学会・薬学会の学術雑誌(電子版)に掲載される。 新物質は、人間の唾液(だえき)や鼻水、胃液などの主成分「ムチン」とよく似た構造を持つ化合物。ムチンには、ウイルスや細菌に吸着して感染力を弱め、体外に排出する作用がある。牛の唾液などから抽出するムチンは既に、食品添加物や胃腸薬に使われている。グループは新物質にも同様の働きがあるとみており、「クニウムチン」と名付けた。 グループによると、エチゼンクラゲを刻んで遠心分離器にかけるだけで取り出すことができ、約10匹(3トン)から1キロの粉末のムチンが採れる。既に、食品会社と協力し、埼玉県内の工場で1日1トン程度を処理する試験を始めている。理研の丑田(うしだ)公規ユニットリーダーは「処理にも役立つ一石二鳥の効果をもたらす可能性があり、実用化を急ぎたい」と話している。 エチゼンクラゲは成長すると直径1メートル超、重さ150〜200キロにもなる。上教授によると、「生まれ故郷」は、東シナ海の中国・浙江省の舟山諸島周辺(長江河口域)と韓国・群山市沖が確認されている。イソギンチャク状の「ポリプ」という状態で越冬し、4月下旬から5月上旬、水温上昇でポリプから幼クラゲに変態する。 エチゼンクラゲは毎年秋ごろ、日本海沿岸で数万〜数十万トンも発生。漁業用の網を破ったり魚を傷つけたりするほか、処理費用もかかって漁業者を悩ませている。