特殊な光を当てて絵画の真贋(しんがん)を見抜く技術。こんな技術につながる手法の開発に情報通信研究機構と東北大学などが成功した。電磁波のテラヘルツ波を利用し、絵を傷つけずに肉眼で区別がつかない顔料ごとの微妙な「色」の違いを見分ける手法で、電子情報通信学会の専門誌に近く発表する。
テラヘルツ波は、光と電波の中間の性質をもつ遠赤外線の一種。物質に照射すると、成分ごとに特有の吸収率を示すことがわかっており、この特徴を読み取って含まれる成分を特定できる。 同機構の福永香・主任研究員らは、イタリアの絵画修復業者から手に入れた古典顔料100種類以上にテラヘルツ波をあて、顔料ごとに反応の違いを分析してデータベース化した。 その結果、肉眼で同じような白に見えても、19世紀まで主流だった鉛白と、その後に登場した亜鉛華、1920年以降に広まったチタンホワイトでは、特徴が異なることがわかった。鉱物系顔料だけでなく植物系顔料や、オイルやアクリルなど展色材の種類も区別できるという。 こうした情報から絵画を傷つけずに顔料を特定できれば、描かれた時期や修復回数などを推定できる。古典絵画から近代の顔料が検出されれば、にせ物である疑いが強くなる。 テラヘルツ波はエックス線のような被曝(ひばく)の心配がないことも利点で、爆発物や薬物なども検出できるため、米国ではテロ対策用に研究が進んでいる。福永さんは「食品添加物や公害物質の検出にも応用できる。装置を小型化して産業利用につなげたい」と話している。