安藤が逆転の金メダル 浅田は驚異的な追い上げで銀
フィギュアスケートの世界選手権は最終日の24日、東京体育館で女子のフリーが行われ、安藤美姫(19)=トヨタ自動車=が前日のショートプログラム(SP)の2位から逆転して初優勝を果たした。
世界選手権で日本女子が優勝したのは、伊藤みどり(1989年)、佐藤有香(94年)、荒川静香(2004年)に次いで4人目。
ショートプログラム(SP)2位の安藤は4回転ジャンプを回避したものの大きなミスがなく、フリー2位で、SP首位の金妍児(キム・ヨナ)(16)(韓国)を逆転した。SP5位だった浅田はフリー1位で一気に順位を上げた。金は3位に終わった。
この種目の日本勢としては04年の荒川静香以来の金メダル。SP5位の浅田真央(16)=愛知・中京大中京高=も銀メダルを獲得、SP7位の中野友加里(21)=早大=は5位だった。SP首位で昨年12月のグランプリファイナルを制した16歳の金妍児(キムヨナ)(韓国)は3位だった。
順位 名前 国 得点 SP FS
1 安藤美姫 日本 195.09 2 2
2 浅田真央 日本 194.45 5 1
3 金妍児 韓国 186.14 1 4
4 キミー・マイズナー 米国 180.23 4 3
5 中野友加里 日本 168.92 7 6
6 カロリナ・コストナー イタリア 168.92 3 9
7 サラ・マイヤー スイス 160.80 9 8
8 スザンナ・ポイキオ フィンランド160.12 10 7
9 エミリー・ヒューズ 米国 159.06 6 13
10 ジョアニー・ロシェット カナダ 158.98 16 5
美姫 自己ベストで逆転世界一
安藤&浅田が涙のワンツーフィニッシュ!フィギュアスケートの世界選手権最終日は24日、東京体育館で女子フリーが行われ、ショートプログラム(SP)2位の安藤美姫(19=トヨタ自動車)は127・11点の高得点をマークし、合計195・09点でSP首位のキム・ヨナ(16=韓国)を逆転。悲願の初優勝を飾った。SP5位の浅田真央(16=中京大中京高)も意地の演技で銀メダルを獲得。10年バンクーバー五輪の星たちが、ついに世界の頂点に立った。
演技終了から5分がたっていた。安藤は祈るような表情で、得点を待つ「キス&クライ」に座っていた。SPで3・97点差をつけられたキム・ヨナを抜けるのか、直前の演技で世界記録をマークし、首位に立った浅田を逆転できるのか…。掲示板に「1」の順位が浮かぶ。逆転優勝に両手で顔を覆うと、モロゾフ・コーチに抱きついて号泣した。
「いろいろなことがあって…。トリノ五輪の後、本当につらい時期があった。本当に言葉にならないくらいうれしい」。15位に終わったトリノ五輪から1年。世界女王へ上り詰め、つらかった思いを涙とともに流した。
抽選で引き当てた最終の24番滑走。米ニューヨークの専門店で70万円で作った赤い衣装に身を包み、冒頭の3回転ルッツ―3回転ループをきれいに決めた。続くジャンプは前日に挑戦を宣言し、試合前の公式練習でも3度挑戦して2度決めていた4回転サルコー。だが「金さんや浅田さんの得点を耳にしていたし、自分の持っている力を出し切ることだけ考えて3回転にした」と言う。ミスなく終えた演技は自己ベストの127・11点。フリーでは浅田に次ぐ2位だが、合計で浅田をわずか0・64点上回った。
「代表に選ばれ、何でと思われた方もいた」と振り返るトリノ五輪時の前コーチ、キャロル・ジェンキンス氏は徹底して褒める指導法だった。甘えから練習量が減り体重は55キロまで増えた。「意識が変わった」今季は、モロゾフ新コーチに食事のとり方まで厳しい指導を受け、体調管理も徹底した。昨年12月18日の19歳の誕生日会でも、大好きなケーキに口をつけなかった。体重は5キロ減り、ジャンプは切れを取り戻した。「いろんな人の励まし、新しいコーチに巡り合えてこんな結果が出せた」。惨敗から見事に立ち直った。
昨年11月のスケートアメリカの試合前夜、宿泊先で火災報知機が鳴る騒ぎがあった。寝ていた安藤は「試合だけは出たかった」とスケート靴だけを抱えてホテルを飛び出した。その後、軽いスケート靴を試してきたが、この日は「命の次に大切」なあのスケート靴を履いていた。道具への思い入れは、そのまま競技への強い意欲。「これからは自分に甘えず、4回転も自分から跳ぶぞという気持ちをもってやっていく。これがゴールじゃない」。拍手に包まれた東京体育館から、安藤の10年バンクーバー五輪が始まった。
真央フリー世界最高も銀
世界最高得点で天才少女が意地を見せた。フィギュアスケートの世界選手権最終日は24日、東京体育館で女子フリーの演技を行い、SP5位と出遅れた浅田真央(16=中京大中京高)は、フリーの世界最高となる133・13点をマークし、合計194・45点で銀メダル。世界選手権では90年ハリファクス大会の伊藤みどり以来、17年ぶりとなるトリプルアクセルも成功させた。
さまざまな感情が全身を駆け巡った。世界選手権では90年大会の伊藤みどり以来、17年ぶり2人目となるトリプルアクセルを決める快挙。133・13点はフリーの世界最高だった。SPで10・63点も差をつけられた金を逆転。演技直後には無邪気な笑みが浮かんでいた浅田の表情が、見る間に泣き顔に変わった。
「すごいうれしいです。ノーミスの演技をして、自己ベストを出すしかないと思っていた」。SPの悪夢は忘れ、1日で天才少女の姿を取り戻した。跳ぶ前にステップを組み込んで難度を高めたトリプルアクセルを冒頭で決めると、ハンガリーの民族舞曲「チャルダッシュ」に乗ってかれんに舞った。ダブルアクセルに続く3回転トーループが回転不足と判定されたが、残るジャンプは成功した。演技点では8点台を3つそろえ、驚異の63点台をマークした。
初出場のシニアの世界選手権にすべてを懸けてきた。約2カ月間の米国合宿では大好きなショッピングを控え、帰国後も愛犬・エアロに会うことすら我慢した。年明けの検査ではアレルギー体質も判明したため、エアコンなど体調管理に細心の注意を払ってきた。ティッシュ箱にプリントされたエアロの写真が、数少ない息抜きだった。
SP5位からの奇跡的な追い込みで手に入れた銀メダル。06年世界ジュニア、今季GPファイナルと連敗中だったライバルの金には勝ったが、安藤に敗れた。会見では「お互いに刺激し合えたらいい」と笑顔で話したが、2位が決まった直後には、悔しさのあまりトイレに駆け込んで泣きじゃくったという。これからも続く安藤、金との争い。うれしさと悔しさ、同じ日に流した全く違う2つの涙。屈辱は、バンクーバー五輪で晴らせばいい。