キヤノンは、次世代の薄型テレビ向けの「SED」(表面電界ディスプレー)の量産工場を、約2000億円を投じて兵庫県に新設する計画を白紙に戻すことで、共同開発する東芝と最終調整に入った。1月に発表する。関連技術を持つ米社との特許訴訟が難航しているためだ。テレビ参入を悲願とするキヤノンの戦略が狂うのは避けられず、投資に期待する地元にも波紋が広がりそうだ。
キヤノンと東芝は99年に共同開発を始め、SEDパネルを開発・生産・販売する折半出資会社「SED」(神奈川県平塚市)を設立。05年5月に、SED社のパネル量産工場を東芝姫路工場内(兵庫県太子町)に建てると発表した。 キヤノンを訴えたのは、関連技術のライセンス契約を同社と結ぶ米ナノテク会社「ナノ・プロプライアタリー」(NP、米ナスダック市場上場)。SED社がキヤノンの子会社かどうかを巡り、05年4月に米国で提訴。和解交渉が難航しており、キヤノンは新工場をいったん断念することにした。訴訟が解決すれば、改めて量産を検討する可能性は残っている。 キヤノンは、SED社株を東芝より1株多く持つため子会社とみなし、契約に基づいてSED社にもライセンスを移せると主張。これに対し、NPは「SED社の意思決定には東芝の同意が必要で、実質的には子会社ではない」と反論している。キヤノンは「子会社」との判決を求める動議を米連邦地裁に出したが、先月棄却された。 事態の打開へキヤノンはSED社への出資比率を高める方針だが、その場合もNPは「(現契約では)東芝にライセンスを移せない」として、東芝がSED社からパネルを調達する際は別途、特許権使用料の支払いを求める考えのようだ。 SED社平塚工場ではすでにパネルを試作している。キヤノンが出資比率を上げ、追加使用料を巡る話し合いがまとまれば、キヤノンも東芝も「少量ながら07年末にSEDテレビを発売できる」(関係者)という。だが、和解にこぎ着けて新工場でパネルを量産しなければ、価格は下げられず普及は難しい。