作家の村上春樹さん(57)が翻訳したアメリカ文学の傑作「グレート・ギャツビー」が今月刊行され、早くも11万部を数えるベストセラーとなっている。
■バブルと破綻…そして成熟 今だからこそ共感 小説執筆の傍ら多くの海外小説を翻訳してきた村上さんは、60歳になったら同書を翻訳すると公言してきたが、今回待ちきれずに前倒しにしたという。10日に中央公論新社から単行本と愛蔵版が発売され、数日後には増刷が決定した。 村上さんがこの小説に出合ったのは高校時代。作者のフィッツジェラルドに深く心を引かれるようになり、「長い歳月にわたって心を通い合わせ、敬愛し続けてきた」という。本書のあとがきには「どうしても一冊だけにしろと言われたら、僕はやはり迷うことなく『グレート・ギャツビー』を選ぶ」と思いを書いている。 村上さんは「(20年代に)米国は未曾有の好景気を満喫し、フィッツジェラルドは若くして名声を満喫していました。(本書は)まさに時代を代表する指標のような作品であったわけです。しかしフィッツジェラルドは明らかに、その喧噪(けんそう)の中に不吉な響きを聞き取っています」と作者と時代を説明。 大恐慌を経た不況の30年代にフィッツジェラルドも米国社会も成熟したとしたうえで、「おそらく日本のバブル経済と、その破綻(はたん)と、『失われた十年間』に相当するのではないか。日本社会もやはりそのような段階を通り過ぎることによって、ひとつの成熟を遂げたのではないか。今こそ日本の読者にある種の実感を持って読まれていいのでは」と、意義を述べた。 そして、本書は「人が成熟していくことについての物語であり、それに伴う発熱の美しさを、苦しさを描いたもの。若い読者の心に響くはずだし、響いてもらいたい。時代を超えて」とメッセージを寄せた。 村上さんは3年前にも「ライ麦畑でつかまえて」のタイトルで知られるサリンジャーの名作を「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(白水社)として翻訳。単行本とペーパーバックで30万部を突破している。中央公論新社の担当編集者、横田朋音さんは「普段は海外小説を読まなくても、村上さんが勧めるなら読んでみようという人は多い。ギャツビーへの突出した村上さんの思いが読者にも伝わったのでは」と、ベストセラーとなった背景を分析している。
【用語解説】グレート・ギャツビー スコット・フィッツジェラルドが1925年、28歳で発表。金持ちが集う20年代のニューヨーク郊外で、華やかな生活を送るギャツビーが、かつての恋人と再会する情景を鮮やかに描いた。「狂騒の20年代」の栄光と虚無感が交錯し、「文学史に残る傑作」との評価を不動のものにしている。日本でも早くから翻訳され、野崎孝氏訳の新潮文庫版は昭和49年の刊行以来、約108万部のロングセラー。村上春樹さんは、フィッツジェラルドの「夜はやさし」も翻訳予定という。
スコット・フィッツジェラルドが1925年、28歳で発表。金持ちが集う20年代のニューヨーク郊外で、華やかな生活を送るギャツビーが、かつての恋人と再会する情景を鮮やかに描いた。「狂騒の20年代」の栄光と虚無感が交錯し、「文学史に残る傑作」との評価を不動のものにしている。日本でも早くから翻訳され、野崎孝氏訳の新潮文庫版は昭和49年の刊行以来、約108万部のロングセラー。村上春樹さんは、フィッツジェラルドの「夜はやさし」も翻訳予定という。