過去の地質年代の区分として使われているジュラ紀などの「紀」が国際学会で再編され、白亜紀に続く「第三紀」と「第四紀」が消えてしまうかもしれない。 二つの紀は日本でも100年以上使われ、地学分野ではおなじみだが、日本列島は、この時代の地層が国土の大半を占めるため、欧米に比べ変更の影響が大きい。教科書や公的機関の文書の書き換えはもちろん、活断層の定義など地震防災にも余波が及びそうで、冥王(めいおう)星の惑星降格騒動に続く新たな“定義”問題が出てきた。
この騒動のきっかけは、世界の地学系学会を傘下に持つ最大組織「国際地質科学連合(IUGS)」の専門委員会が年代区分についてまとめた2004年版の報告書。 この中で、ジュラ紀や白亜紀に続く紀として、第三紀と第四紀の代わりに、第三紀の中ごろにあたる約2300万年前で二分した「パレオジーン」「ネオジーン」という紀が示された。 2300万年前は、もともと、第三紀を新旧に分ける場合の境界だった。だが、新区分を提案した米パーデュー大のジェームズ・オッグ教授は「最近の海底掘削や極地の氷柱などの分析結果は、2300万年前こそ大きな時代の節目であることを示している」と主張。より古い時代の地層が多い欧米では、第三紀後半と第四紀をひとくくりにしても影響が大きくないと考えられている。 これだけ大きな紀レベルの変更は、これまでなかった。しかし新区分は、日本などの合意もないまま報告書に盛り込まれたという。 日本地質学会では、日本第四紀学会などと検討を始めた。地質学会でこの問題を担当する天野一男・茨城大理学部教授は「『第四紀以降に活動』としてきた活断層の定義のほか、開発や資源探査、防災の基本となる産業技術総合研究所の地質図も書き換えが必至となる」と話す。 年代区分を使うのは、天文・宇宙や生物学、人類学など幅広いため、地学系学会だけの問題では済まされず、新区分が確定した場合、用語の統一などで日本学術会議の対応も必要になるとの見方も出ている。 中国では、ネオジーンを「新近紀」、パレオジーンを「古近紀」とする訳語が作られている。確定の際には、日本でも導入される可能性がある。この問題については、08年8月にノルウェー・オスロで開催される万国地質学会議で採否が論議されるが、学界内でも意見が割れており、論議が難航する恐れもある。