「ゲーム脳」「テレビ漬け」といった言い方でとかく批判されがちなゲームやテレビだが、複雑な知識や認知能力を要求するように発展してきたテレビやゲームは、結局は人の脳の発達を促しているのではないか!?そうした論証を試みた書籍が米国で昨年出版され話題を呼んだ。日本でも最近翻訳されたスティーブン・ジョンソンの「ダメなものは、タメになる」(翔泳社)である。
ゲームのユーザーは、自分で操作する前に、どのような結果になるか仮説を立て、検証し、結果を見るというプロセスを繰り返している。初期の「ポン」や「パックマン」といったゲームは、それは非常に単純なもので、仮説の積み重ねによって完璧な回答にたどり着くことはそれほど難しくなかった。しかし、現在のゲームでユーザーに求められるのは、アクションゲームであれば謎解きのためのプロセスの複雑な仮説検証であり、RPGであればアイテムの量を状況にあわせて管理するリソースマネジメントでありと、高度に複雑化している。
「スリーパー曲線」とは
ドラマであれば「24」や「ER」のように、同時に複数のストーリーが交錯し、視聴者に複雑な人間関係を追い続ける知的作業を要求する。昔のドラマに比べ、今のドラマは非常に複雑な構成になっていて、理解するための知的な要求水準は高まっている。 ジョンソンは、こうした人が気づかない複雑化の傾向を「スリーパー曲線」と名付けている。複雑化していくテレビやゲームは、複雑な知的作用を行う訓練となっているのであり、その証拠として人々のIQ値はマクロベースでは上昇傾向にある。ゲームが批判を受けがちな学校などでの暴力も、イメージとは裏腹にここ10年あまり北米では半減していると指摘している。 単に新しいメディアとして批判を受けてきたテレビやゲームが、逆に知的訓練として人の知能を発達させているという逆説的な論証の組み立てはスリリングだ。著者のジョンソンは、「創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク 」や「マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く」などの執筆で知られる科学ジャーナリストである。発達を続けるテレビやゲームについて、単にネガティブでない新しい視点をもたらしているという意味で、非常におもしろい議論を提供している。 同書ではアメリカのドラマが中心に語られ、日本人にはなじみのないものも多いが、読んですぐにピンとくるのは、日本にもこの議論に当てはまるメディアがすでに多数存在し、同じような「スリーパー曲線」が描かれ、おなじみのものである。すぐに日本のゲーム・テレビに応用できる議論であることに気がつく。さて、この内容を活かすか殺すか?それはあなた次第です。 ■ダメなものは、タメになる