日立マクセル、高音質化技術“Bit-Revolution(ビット・レボリューション)テクノロジー”を発表した。マクセルでは、同技術を採用したパソコン向けUSBオーディオデバイスやヘッドホンを“VRAISON”(ヴレソン)のブランド名で、11月から順次リリースしていく計画だ。
九州工業大学ヒューマンライフIT開発センターの佐藤寧(さとう やすし)教授とマクセルが共同で開発したもの。研究は2005年に開始した。MP3などの圧縮時に失われてしまう、高音成分や微小音を補完するものだが、CDなど非圧縮のソースに関しても効果がある。記録できる周波数とダイナミックレンジの上限は、音楽CDの場合22kHz/96dBまで、MP3では16kHz/96dBまでに制限されてしまうが、これを演算処理で44kHz/120dBまで向上させられる。 Bit-Revolutionは、この高域補完に加えて、量子化ビットに関しても16bitの信号を24bitに拡張する“スムージング処理”(分解能の向上)や、あらかじめ登録しておいたユーザーの聴覚データを取得して、聞こえにくい周波数帯を大きめに再生する“聴覚感度補正”なども行なう。 高域成分の補完技術には、(株)ケンウッドの“Supreme”(サプリーム)やヤマハ(株)の“ミュージックエンハンサー”、日本ビクター(株)の“CCコンバーター”、松下電器産業(株)の“リ.マスター”といった類似技術があるが、その多くは、残っている中低音域のデータを、高域にシフトさせることで、失われた倍音成分を補っている。一方、Bit-Revolutionでは、基本波の変調によって本来の波形を再現する手法とした。楽器や人の声は基本となる波が共鳴/反射することで豊かな響きを作っている。これに近い仕組みとすることで、より“本物に近い”再生が可能だという。 発表会では、4kHzでカットされた音声信号を倍の周波数となる8kHzまで伸長するデモや6bitで量子化された信号を16bitにまで増やすデモなどが行なわれた。前者のデモでは電話のようにナローな印象だった音が、自然な音に変わったこと。後者のデモでは、ジャリジャリとした量子化ノイズが聞こえない程度まで減ったことが確認できた。 パソコン用周辺機器から。ヘッドホンも来春発売予定 VRAISONブランドを冠した最初の製品は、9月後半に発表になる予定(発売時期は11月、Macintosh版は来春)。まずはパソコン用のUSBオーディオデバイスに操作用のコントローラー(リモコン)を同梱した製品を提供する。Bit-Revolutionの利用には専用のドライバーソフトが必要で、高音質化機能に加え、サラウンド機能なども提供される見込み。音質に関しては、MP3やCDだけでなく、DVDや動画の音声部分も向上させられる。 聴覚感度補正の機能 ドライバーソフトにプロファイルを読み込む機能が用意されている。プロファイルは、専用のソフトで周波数ごとに音を聞きながら、聞こえる音と聞こえない音を選択していくことで作成できる。一般に人間の耳は20歳ごろをピークに徐々に老化していく。20代では20kHzの高い音を聞き取れても、50代後半では14〜15kHz程度の音しか聞き取れない場合が多いという。「眼鏡を掛けるような気軽さで」可聴帯域に合わせた補正を利用してほしいと、日立マクセルグローバル営業統括本部マーケティング部長の松岡建志氏は話す。 2007年の春には、AV用高音質化ヘッドホンをフルラインアップで展開する予定。 これらのヘッドホン製品には、Bit-Revolutionの機能がチップ化して内蔵され、24bit/96kHzサンプリング、上限周波数44kHzというDVD Audio並みの再生品質が利用できる。また、聴覚感度補正イコライザーやノイズキャンセリング機能も搭載される。ノイズキャンセリング機能は単に周囲の音をマイクで収集し、逆位相の波を合成するだけでなく、周波数解析や学習アルゴリズムなども利用して、環境ノイズの低減を行なうという。「例えば、救急車のサイレンのように特定の音域だけを生かす処理も可能」と佐藤氏は話す。 「VRAISON(ヴレソン)」はフランス語のVRAI(本物の)+SON(音)を合わせた造語で、「本物の音」をユーザーに提供することをコンセプトとしています。今後、マクセルは高音質、高機能を備えたデバイスを「VRAISON」シリーズとして商品化を行い、「本物の音」を体感できる製品を開発していきます。