教科書は?占星術は? 惑星の新定義に反響続々
太陽系の惑星を今より3個増やそうという国際天文学連合(IAU)の惑星定義委員会の提案が、反響を呼んでいる。チェコ・プラハで開催中の総会で24日に予定される採決で、新しい定義はすんなり認められるのか。そこは天文学者たちにも見通せないという。
米メディアは新定義を大きく取り上げた。しかし、その関心は惑星が増えることではなく、冥王星が惑星の地位にとどまった点に集まっている。冥王星は従来の9惑星のうちで唯一、米国人が発見した惑星。しかも、今回の定義の見直しが、そもそも「冥王星は惑星か」という論争に端を発していたからだ。
「冥王星、当面は太陽系内での地位を維持」
ニューヨーク・タイムズ紙は、16日付朝刊1面でこう伝えた。
ワシントン・ポスト紙も同じく1面で「冥王星の新たな地位は『プルートン(冥王星型惑星)』の見通し」と報じた。
冥王星は1930年、米天文学者クライド・トンボーが発見した。このため、米国民は冥王星への愛着が強い。かつて冥王星を他の惑星と区別して展示したプラネタリウムに、全米の児童から抗議が殺到する「事件」が起こったほどだ。
だが、冥王星は月より小さく、しかも軌道が他の8惑星の共通軌道面から大きくはずれ、傾いている。このため「冥王星は惑星か」という議論が常につきまとってきた。
新定義では、米観測グループが昨夏に「第10惑星」と発表した「2003UB313」と、従来は冥王星の衛星とされていた「カロン」、これまで小惑星と分類されていた「セレス(ケレス)」が惑星の仲間に加わる。
その上で、「プルートン(冥王星型惑星)」という特別なグループを新設。冥王星、カロン、「第10惑星」の三つをこのグループに分類した。
カロンを衛星から惑星に「昇格」させた点などについて「事態を混乱させる」といった批判も聞かれるものの、「冥王星を惑星と規定するほとんど唯一の方法」「すばらしい妥協だ」などと評価する専門家の声を、米メディアは伝えている。
一方、東京工業大の井田茂教授は「惑星形成の専門家で、冥王星を惑星と考える人はいない」と話す。「小天体が集まって一つに合体し、その軌道上で最大となった天体を惑星と見なしている」
日本惑星科学会会長の向井正・神戸大教授も「理論的には冥王星をはずした方がすっきりする」。しかし、「長い間惑星として教科書にも載っていて、はずすことの影響は大きい」といい、「新しい惑星がどんどん増えれば、もう一度議論し直す必要が出てくるかもしれない」と見る。
新定義が認められるとどんな影響が出るのか。
理科の中学生用教科書を出している東京書籍は、「いまは、来年度用を製作する最後の段階で、変更が決まっても間に合うかどうかは非常にぎりぎり」という。
文部科学省によれば、検定終了後であっても客観的事実の変化は訂正で反映できる。「惑星の数や定義」もこれに当たるが、訂正の申請から認可まで1週間はかかる。
国立天文台が編集する理科年表。こちらは、11月の発行に十分間に合うと、あわてていない。
架空の第10〜13番惑星が登場するSFアニメ映画「トップをねらえ!」を10月に公開するガイナックスの神村靖宏さんは「SFはもともと虚構の世界。地球の学会が定義を変えたからといって、我々が勝手につくった11番惑星がなくなるわけではない」。
古来の占星術では、水、金、火、木、土の5惑星と太陽、月を合わせた七つを重視した。心理占星術研究家の鏡リュウジさんは「1781年に天王星が発見されたときは、市民革命が起きて人類の意識が変わって新しい星が必要になったと理屈づけをした」という。
いまや占星術の世界は一枚岩ではない。七つだけにこだわる守旧派から、何万個もの星をどんどん取り入れる改革派まで千差万別だ。「新定義をいち早く取り入れる人もいるでしょう」と鏡さんは予想する。
「惑星12個」幻に? 国際天文学連合で異論続出
太陽系の惑星の定義案について審議している天文学者の国際組織「国際天文学連合」(本部・パリ)は21日、定義案の修正に着手した。
プラハで開催中の同連合部会で、専門家から異論が相次いでいるため。定義案は24日に開く総会で採決にかけられるが、原案の変更が必至の状況となった。
定義案は、惑星は自己の重力で球形を作り、恒星の周囲の軌道を回る天体――とするもので、この案が採択されると、惑星は、現在の9個から12個に増えることになる。
部会に参加している国立天文台の研究者などによると、定義案が提出された16日以降、惑星科学の専門家などから、「単純に大きさと形だけで決めるべきだ」「明るさを表す等級(絶対等級)で決めるべきだ」などと批判が集中。「定義は必要ない」といった意見さえも出ている。定義案で示された「冥王(めいおう)星族」という惑星の新分類法にも、大多数が反対しているという。
太陽系惑星9→12個へ増数案、反対論が続出
太陽系惑星の数を現在の9個から12個に増やそうという国際天文学連合(本部・パリ)の新定義案について、チェコ・プラハで開かれた22日の同連合総会では反対論が続出した。
同連合評議委員会で再度修正に入っているが、24日の採決では否決される可能性が極めて高くなっている。
22日の総会では、16日に提出された原案に対する異論が多かったため、原案がまるごと否決されるのを防ぐ形に分割した修正案が提出された。だが小惑星「セレス(ケレス)」、冥王(めいおう)星の衛星「カロン」を惑星に昇格させる内容に反対論が続出。
ほかの惑星と、大きさや軌道面で異質な冥王星をこの際、惑星の座から降格させるべきだとの声もあり、「根拠が明確ではない以上、今総会での定義作成は見送るべきだ」という意見が大勢を占めた。
冥王星降格案が基本、惑星定義最終4案 24日採決
国立天文台に24日入った連絡によると、チェコ・プラハで開かれている国際天文学連合総会で、日本時間同日夜に採決される「惑星の定義」の最終提案が公表された。四つの決議案に分かれており、太陽系の惑星を「水金地火木土天海」の8個とし、冥王星は惑星から除く案を基本としている。
四つの決議案のうち中心になっているのは、太陽系の惑星を「太陽の周りを回り、十分重いため球状で、軌道近くに他の天体(衛星を除く)がない天体」と定義する「決議5A」で、注で惑星は「水金地火木土天海」の8個としている。冥王星を念頭に「太陽の周りを回り、十分重いため球状だが、軌道近くに他の天体が残っている、衛星でない天体」を矮(わい)惑星と定義している。
「決議5B」は、「決議5A」の「惑星」を「古典的(伝統的)惑星」と表記する案。「決議6A」は、冥王星は矮惑星であり、それより遠くにたくさんあると考えられている天体の典型例と明記する案。「決議6B」は、「決議6A」に加え、冥王星に代表される天体をプルートニアン(冥王星族)天体と呼ぶ案。
投票権を持つのは、総会に参加している各国の天文学者約2400人。四つの決議案について、別々に投票する。「決議5A」が可決されれば、冥王星は惑星から格下げになる。採決は、24日午後2時(日本時間同9時)からの閉会式で行われる予定だ。
冥王星は格下げ・惑星は8個、国際天文学連合が採択
惑星の定義について検討を重ねていた国際天文学連合(IAU)の総会は24日、冥王(めいおう)星を惑星から格下げし、76年ぶり変更、歴史的決着太陽系の惑星を8個とする最終決議案を採択した。
冥王星を惑星に残した上で11個とする案も提案されたが、他の惑星と軌道や大きさが異質な冥王星は惑星ではないとする意見が多く、否決された。太陽系9惑星のひとつとして長く親しまれてきた冥王星だけに、今回の決議は天文学や教育現場に大きな波紋を呼びそうだ。
1930年の発見以来、第9惑星と位置付けられていた冥王星は76年ぶりに降格、水星から海王星までの8個の惑星とは異なる「矮(わい)惑星」に分類された。惑星の定義はようやくまとまり、太陽系に関する教科書の記述が大幅に書き換えられる歴史的決着となった。
採択された惑星の定義は、<1>太陽を周回し<2>自分の重力で固まって球状をしている<3>その天体が軌道周辺で圧倒的に大きい――とする内容。この条件では、より大きい海王星と軌道が重なっている冥王星は、<3>の条件を満たせず惑星から外れた。
「降格」冥王星に番号 小惑星「134340番」に
国際天文学連合(IAU)は、8月の総会で惑星から除くことが決まった冥王星に対し、小惑星と共通で使う通し番号「134340番」を割り振ったと発表した。IAUの惑星の定義には米国を中心に反対運動もあるが、今回の登録で冥王星「降格」の既成事実化が一段と進んだといえる。
これまで、冥王星を含む海王星以遠天体など衛星や彗星(すいせい)以外の小天体は、観測で軌道が定まると正式登録され、IAUの小惑星センターが通し番号を付けてきた。
同センターは98〜99年に、冥王星に切りのいい小惑星番号1万番を付けようとしたが、米国世論の強い反発で断念したことがある。
今回のIAUの定義で、小惑星などの中で自分の重力で丸くなっているものを特に矮(わい)惑星と呼ぶことになった。冥王星より大きいため以前に「第10惑星」と呼ばれていた矮惑星2003UB313には136199番が割り振られた。同じく矮惑星に分類されたセレスは、最初に見つかった小惑星として1番が割り振られている。