広島の原爆投下の悲劇を新しい視点から描いたコミック「夕凪の街 桜の国」が映画化され、田中麗奈(26)が主演を務める。 原作は原爆の非人間性を平凡な人々の日常を通じて浮かび上がらせた手法が絶賛され、各賞を受賞し、海外で翻訳版も出版された話題作。ほれ込んだ田中が出演を熱望した。佐々部清監督がメガホンをとり、来夏公開予定。
映画「夕凪の街 桜の国」は、広島で被爆した家族の10年後を描く「夕凪の街」と、その子供として生きるヒロインが自分のルーツを見つめ直す「桜の国」で構成する。田中は、父親の家族の被爆を知らずに育った女性を演じる。ある日、不可解な行動をとる父親を追いかけてたどり着いた広島で、無関係と思っていた原爆投下の悲劇が自分の人生に大きく関係していたことを知る。後遺症で恋愛に対して悩みを抱え、生き残ったことにすら、つらさを感じて生きた家族の存在も知る。2つの世代の物語をつなぐ役割も担っている。 広島出身の漫画家こうの史代さんによる原作は、原爆投下の悲惨さを声高に訴えてはいない。穏やかな絵のタッチと何げない生活描写の中に、原爆によってどれほど人間が苦しめられているかをにじませ、04年の出版直後から反響を呼んだ。文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞新生賞を受賞し、朝日新聞や書籍紹介誌など各方面で絶賛された。韓国では既に翻訳が出版され、米国、ドイツ、フランスなどでも出版が予定されている。 田中も「原爆の悲しさと家族の深いつながりを感じました。共感できたこの作品をもっと世の中に知っていただきたかった」と原作を伝える役目を強く自覚している。原爆投下について「一瞬で夢、希望、家族を奪ってしまう許されないこと」と認識していたが、出演が決まるとすぐに「主人公が見たもの、感じたことに近づきたくて」と広島に足を運んだ。 バスで市内を巡り、撮影予定地を訪ね、広島平和記念資料館も見学した。映画を中心に活躍してきたが、これほど社会性の強い作品への出演は初めて。歴史や人物の背景をつかみ取り、スクリーンに反映させるつもりだ。 メガホンをとる佐々部監督は「陽はまた昇る」「チルソクの夏」「半落ち」など人間ドラマで高い評価を得ている。田中の起用について「凛(りん)としている。今を生きる女性の代表というか、感性があると思った」という。撮影は既に始まっており、来夏公開。配給はアートポート。