男性用の小便器に張り付ける直径3センチの小さなシールが思わぬヒット商品になっている。「的があれば狙いたくなる」という男性心理を巧みに利用し“的はずれ”な方向への飛び散りを防ごうというアイデア。
一昨年に関西国際空港が考案したところ、商魂たくましい大阪市内の印刷会社が独自に商品化。トイレの汚れに悩む公共施設などに大ウケした。採用例は全国に及んでおり、関空から生まれたナニワのニュービジネスとして注目されそうだ。 商品化したのは、大阪市中央区の印刷会社「たかアート」。今年1月、ダーツの的やテントウ虫、「777」マークを印刷したシール3種をインターネットで売り出したところ、学校や病院、ビルの清掃会社などから問い合わせが殺到し、これまでに約700セット(10枚組)を売り上げた。価格は1セット3800円。 「関空さんの成功例をニュースでみて、『これや!』と思いました」と同社のシール販売担当、岡本達幸さん(38)。シールは小便器の排水溝の上約15センチの位置に張って使う。岡本さんが「実験」を繰り返し、飛び散らない角度を検証した。 関空との違いは、温度で色が変わる特殊インクを使い、うまく命中すると、マークが赤くなるところ。「単なるものまねではつまらない。お客さんに飽きられないよう工夫してみました」と岡本さん。一番の売れ筋はダーツ型。テントウ虫は学校、「777」はパチンコ店でよく売れているという。 ≪効果抜群≫ 一方、最初に関空にシールを納品した“本家”の印刷会社「岸和田双陽社」(大阪府岸和田市)にも問い合わせが相次ぐ。20〜30枚と小口の注文が多いため、昨年末に2000枚を一括生産。1枚20〜30円で小分けするビジネスを始めた。 効果はてきめんで、昨年12月に300枚を購入した和歌山市古屋の「和歌山労災病院」では、1日4回掃除をしてもやまなかった患者からの苦情が、シールの張り付け後に激減。「モップをしぼる回数が減った」などと清掃員らの評判も上々という。 また、最近では、国内最大手の鉄道会社から、「新型特急に採用できないか」と、サンプル提供の依頼があったといい、商談が成立すればビッグビジネスに発展する可能性もでてきた。鉄道の場合も、揺れの激しい電車のトイレの汚れに悩んでいるという。 トイレ業界大手のTOTOの調査によると、トイレが不衛生と感じた場合、その店を「もう利用しない」「利用回数を減らす」と答えた人は計77%に及んでおり、トイレが施設の集客に及ぼす影響は大きい。シールの商品化は、そうしたニーズをうまくとらえたというわけだ。 ≪世界一に≫ しかし、このアイデア、もともとは関空側の発案によるものだ。関空によると、施設の清掃員が韓国旅行に出かけた際、小便器内にテントウ虫型のマークがあるのを発見。帰国後にシールを発注して空港内の556基の小便器に張り付けたことが、そもそもの始まりだった。この結果、関空は「世界で最もトイレがきれいな空港」という評価を英ロンドンの調査会社から得るようにもなった。 担当者は「まさかうちのアイデアが商品化されているとは…。ただ、私たちも海外からヒントを得たわけですし、権利を主張するつもりはありません。これで全国のトイレがきれいになってくれれば」とエールを送っている。