フランスが準決勝でポルトガルを破り、2大会ぶりの決勝進出。今大会を最後に現役引退するMFジダンは、栄光に彩られたサッカー人生の幕をW杯決勝という最高の舞台で下ろすことになった。
芸術家になぞらえ「マエストロ(巨匠)」と称される不世出の司令塔の残り少ないプレーの一つ一つを、いとおしむように見守った。アルジェリア移民2世で、マルセイユの貧困街の路地裏から始まった“伝説”の最終章。舞台は歴史あるベルリンの五輪スタジアムである。
長年にわたり後方から司令塔のプレーを見続けてきたビエラは「いまでもファンタスティックな選手。決勝が彼の最後の舞台となってうれしい」。主将に有終の美を飾らせてやろう、という思いはチームの大きな求心力を生んでいる。
鍵を握るのは司令塔対決。イタリアのトッティとピルロ、フランスのジダンは1本のパスで局面を打開できる。フランスはマケレレとビエラ、イタリアはガットゥーゾがそのつぶし役を担い、中盤で主導権を握った方が優位に立つことは、ほぼ間違いない。
4試合連続で失点していないイタリアのGKブフォンとDFカンナバロが、フランスのエースストライカー、アンリを抑えられるか。2人とも大きな国際大会の決勝で活躍したことがなく、真価が問われる。
イタリアは“カテナチオ(かんぬきの意)”と呼ばれる伝統の守備力が健在だ。ここまでわずか1失点で、それもオウンゴールによるもの。大会中にセンターバックのネスタを負傷で欠きながら、主将カンナバーロ、GKブッフォンの活躍で鉄壁の守りを誇っている。
特に今大会は試合終盤でのゴールが多く、疲労がピークの中で勝利をもぎ取りに行く精神力はすさまじく強い。リッピ監督のさい配も当たっており、ジラルディーノ、デルピエロ、インザーギとベンチに控える選手もタレントぞろいだ。
一方のフランスは、大会序盤こそ得点力不足で苦しんだが、攻守のかなめビエイラを中心にチームの形を作り始め、グループリーグを2位で通過。1トップのアンリのそばでジダンが自由に動く形がフィットすると、スペイン、ブラジル、ポルトガルと次々に強豪を撃破し、守備をベースにした戦い方で決勝まで上り詰めた。今大会で現役引退を表明しているジダンにとっては、いよいよ最後の試合となる。フランスの復活をかけるとともに、一時代のフィナーレを飾る。
イタリア対フランスは、ユーロ2000(欧州選手権)決勝カードの再現となる。そのときはイタリアが先制したが、ロスタイムにフランスのビルトールが劇的な同点ゴール。さらに延長戦でトレゼゲがゴールデンゴールを決め、フランスが優勝した。今回の対戦で栄冠を手にするのは果たしてどちらか。
イタリア、歓喜の4度目V! ジダンはまさかの一発退場
2006年W杯は現地時間9日、決勝のイタリア対フランスが行なわれ、守備に定評のある両チームの対戦となったが、試合はいきなり動きを見せた。マルダの突破からフランスが開始7分にPKを獲得すると、これをジダンがクロスバーに当てながらも浮き球の絶妙なキックで決め、早くも“ル・ブルー”が先制する。
前半6分 フランス ロングボールをアンリがヘッドでつなぎ、マルーダがペナルティーエリアに進入すると、マテラッツィに倒されてフランスがPKを獲得
前半7分 フランス GOOOOOAL!! PKのキッカーはジダン。ふわりとしたチップキックがゴール右上に飛び、クロスバーに当たって、ゴールラインの中でバウンドする。フランスが先制
前半19分 イタリア GOOOOOAL!! ピルロの右CK。高いボールをファーサイドに送ると、マテラッツィが打点の高いヘディングシュート! ゴールネットを揺らす。イタリアが同点に追いつく
しかし、ビハインドを背負ったイタリアも直後から反撃を開始。徐々にリズムをつかむと、19分にピルロのCKからマテラッツィが高い打点のヘッドでネットを揺らし、すぐさま同点に追い付いた。その後は、互いに中盤で激しく相手の攻撃を潰し合う展開となり、1対1のまま前半は終了する。
後半に入ると、序盤はジダンのキープやアンリの突破を活かしてフランスが攻勢に出るも、ゴールは割れない。一方のイタリアは61分、この試合あまり目立つ活躍を見せられなかったトッティを下げ、さらに86分にはデルピエーロを投入して展開の打開を図るも、こちらも得点までは至らず。結局1対1のまま90分を終了し、試合は延長戦に突入することとなった。
延長後半開始 イタリアボールでキックオフ
延長後半2分 フランス 12 アンリOUT 11 ビルトールIN
延長後半5分 フランス プレーとは関係のないところで、マテラッツィの胸に頭突きを食らわせたジダンにレッドカードが出される。ジダンが退場処分
延長に入ってからも互いにチャンスを潰し合う展開が続き、前半を終えてもスコアは動かない。そして110分に事件は起こった。マテラッツィの挑発に対し、突如怒りを露にしたジダンがおもむろに頭突きを見舞って一発レッド。
延長後半10分 イタリア 左サイドから中央にグロッソが切り込み、ペナルティーエリア手前でパスを右に出すが、イアキンタとは呼吸が合わず
延長後半12分 イタリア 自陣からピルロが最終ライン裏にロングボールを送り、トーニが走り込んだがオフサイド
延長後半13分 イタリア デルピエロが中央にドリブルで切り込み、左サイドへスルーパスを送るが、グロッソと呼吸が合わずにボールはゴールラインを割る
延長後半 ロスタイム表示は1分
延長後半15分 フランス センターサークル付近から、最終ライン裏に浮き球のスルーパス。ビルトールがペナルティーエリア右へ走り込み、中央へ折り返そうとしたが足を滑らせてキックミス
延長後半終了 終了のホイッスル。1-1のままPK戦に突入
PK戦1本目 イタリア ○ピルロ:右足でゴール正面に落ち着いて決める
PK戦1本目 フランス ○ビルトール:勢いのある助走からゴール右に決める
PK戦2本目 イタリア ○マテラッツィ:左足のシュートをゴール右隅に鋭く決める
PK戦2本目 フランス ×トレゼゲ:細かいステップから蹴ったシュートは、ゴール左上に飛ぶが、クロスバーに当たる
PK戦3本目 イタリア ○デ ロッシ:ゴール左上に豪快に決める
PK戦3本目 フランス ○アビダル:ゴール左に落ち着いて決める
PK戦4本目 イタリア ○デルピエロ:長い助走からゴール左に決める
PK戦4本目 フランス ○サニョル:ゴール右に思い切りのよいシュートを決める
PK戦5本目 イタリア ○グロッソ:左足でゴール右上に決める
試合終了 イタリアがPK戦を制し、24年ぶり4回目の優勝!
まさかの展開でチームの中心を失ったフランスだったが、10人でなんとか残り時間を凌ぎ切り、勝負の行方はPK戦に委ねられることに。だが、フランスの踏ん張りもここまでだった。トレゼゲが外したフランスに対し、5人のキッカー全員が見事に決めたイタリアが勝負強さを発揮し、見事栄冠を手繰り寄せることとなった。
1対1のまま迎えたPK戦の末にイタリアが勝利。この結果、“アッズーリ”がついに24年ぶり4度目の優勝を果たした。なお、今大会終了後の現役引退を表明し、この試合がラストマッチということで注目を集めたジダンは、延長終盤に相手選手へ頭突きを見舞い退場処分を受けている。
英雄?悪役?ド派手“マテ劇場”
決勝で最も派手な立ち回りを演じたのはイタリアDFマテラッツィだった。前半7分、ペナルティーエリア内でMFマルダを倒し、ジダンの先制点につながるPKを献上。1点を追う前半19分には、ピルロの右CKを頭で決めて同点に追いついた。
しかし、本当の見せ場は延長後半5分だ。マークしていたジダンともつれあい、離れる際に何事か言葉を浴びせた。その言葉に怒ったジダンの頭突きを、胸に一撃を食らい、ピッチに倒れ込んだ。演技賞もののプレーでフランスの主将を退場に追い込んだ。勝敗はPKで決着したが、流れはこの時決まっていた。
「決勝のマン・オブ・ザ・マッチはピルロではない。マテラッツィだ。同点ゴールを決め、そしてジダンを退場に追いやった」。敵将ドメネク監督の皮肉たっぷりのコメントがマテラッツィの“仕事ぶり”を証明した。
もともと筋金入りの「悪童」として名高い。セリエAではひじ打ちはもちろん、相手にパンチを浴びせたこともある。今大会もオーストラリア戦で一発退場している。
優勝にマテラッツィ本人は「これまでの苦労が報われた思いだ」と喜んでいるが、フランス側の怒りは収まらない。
トレゼゲは「あいつはカップを勝ち取ったかもしれないが、胸を張ることはできない。サッカーよりも大切なものが人生にはある」と吐き捨てた。マテラッツィがジダンに対して何を言ったのかは不明。しかし、言葉の内容が判明した場合には、厳罰が下される可能性も残っている。だが、イタリア紙ガゼッタ・デロ・スポルトは「クレバーな活躍。点を取り返しジダンを退場させた。相手をよくいらだたせた」と賛辞を並べた。悪役とはいえ母国にとっては英雄に違いない。
ジダン映画の結末も「一発退場」だった
ジダン 神が愛した男 映画 Zidane-A 21st Century Portrait
映画が現実になった!? 10日、サッカーW杯決勝でのフランス代表MFジダンの一発退場劇を、日本の映画関係者があ然と見守っていた。15日公開のフランス、アイスランド合作映画「ジダン 神が愛した男」のラストシーンも、W杯を予知したかのような一発退場シーンだったからだ。配給関係者は、奇妙な符号に驚き、戸惑いながらもヒットへの期待をふくらませている。
同作は、17台のカメラを駆使し、1試合のジダンのプレーだけを克明に追った、異色のドキュメンタリー。05年4月23日、スペインリーグのRマドリード−ビジャレアル戦で撮影された。この試合の終了直前で、ジダンは相手選手ともみ合いになり、レッドカードをもらったが、映画はピッチから去るシーンで終わる。
配給のシネカノンの関係者はW杯決勝の退場劇に「まさか、映画と同じシーンが起きるとは」と絶句したという。同時に「できればフランスに優勝してほしかったが、この一件で映画も話題になれば」とPR効果も期待している。
その兆しはあった。ジダンがW杯の主役になるにつれて、映画への注目も高まっていた。今年のカンヌ国際映画祭の特別招待作品でフランスではヒットしたが、日本国内では都内1館だけの上映で注目度も低かった。だが、6月末に1日約150件だった公式ホームページへのアクセスが、9日には14倍の2000件に上った。またジダン報道の増加によって、広告費に換算すると約10億円規模の効果も見込まれるという。このため、シネカノンは興行収入予想を2500万円から4倍の1億円に上方修正したほどだ。
フランスで「ジダンの頭突き」がこの夏のヒット曲に?
サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会決勝戦でのジダン選手の「頭突き」が各方面で物議を醸すなか、フランスではこれを題材にした歌がヒット曲になる可能性が出てきた。
フランス代表主将のジダンは、W杯決勝でイタリアDFマテラッツィと口論の末に頭突きをし、レッドカードの退場処分を受けていた。
フランス語で「頭突き」を意味するタイトルが付けられたこの曲を製作したのは、主にコマーシャル音楽を専門とするプラージュ・レコーズ(www.laplagerecords.com)のメンバーら3人。
フランス語で「ジダン・ザ・ヒットマン」というコーラスが入るこの曲を作った当初の目的は、敗戦によるショックを慰めることが目的だったという。
知人ら約50人にこの曲を電子メールで送ったところ、ウェブサイトへの掲載や、フランスのラジオ局「スカイロック」に取り上げられるなどして人気が高まった。
業界関係者の間では、この曲の版権料が最大10万ユーロ(約1460万円)になるとの見方もある。
プラージュ・レコーズの創設メンバー、セバスチャン・リプシッツ氏はロイターに対し「大手レコード会社4社と交渉中で、明日にも契約出来るかもしれない」とコメント。「この曲で儲かるかもしれない。でも、この曲で夏にみんなが踊ってくれたらそれが嬉しい」と語った。
マテラッツィ、発言内容明かす=ジダンの頭突き事件で−欧州サッカー
サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会決勝で、フランスのMFジダンから頭突きを見舞われたイタリアのDFマテラッツィが挑発したとされる発言内容が5日、明らかになった。AFP通信によると、イタリア紙ガゼッタ・デロ・スポルトがマテラッツィへのインタビュー記事で伝えた。
マテラッツィの説明では、頭突きの直前に同選手がジダンのユニホームを引っ張った際、ジダンから「そんなにユニホームが欲しいなら、後でくれてやる」と言われたため、「それならお前の姉妹の方がいい」と答えたという。
これまで当事者からピッチ上での会話内容は明かされたことはなく、マテラッツィの言葉にアルジェリア移民の子ジダンに対する人種差別的意図が含まれていたのではないか、との憶測もあった。マテラッツィは同紙に対し、「よくない言葉だとは思うが、たいがいの選手も使うものだ。そもそもジダンに姉妹がいることすら知らなかった」と話している。