憂歌団、上田正樹、シャ乱Q… ファンらアンコールの声。関西の音楽ファンに約二十五年間親しまれてきた大阪・梅田の老舗ライブハウス「バナナホール」が、九日の公演を最後に閉店する。ホールのある建物を所有会社が改築し、別の音楽施設を建設するためだ。運営する高木健至社長(56)は「キタのどこかでまた『バナナホール』を開きたい」と再開に意欲を示すが、関西ではライブハウスの閉店が相次いでおり、音楽関係者やファンからは惜しむ声が広がっている。
「バナナホール」は昭和五十六年にオープン。京都の「拾得(じっとく)」や「磔磔(たくたく)」、神戸の「チキンジョージ」などと並ぶ関西の老舗ライブハウスだった。 収容人数は最大六百五十人。プロ・アマを問わず受け入れ、売れ筋のポップスやロックだけでなく、ブルース、ジャズ、フォーク、民族音楽とジャンルも幅広く、関西が拠点の「憂歌団」のほか、チェッカーズやシャ乱Qも出演。BEGINや上田正樹さんら多くのミュージシャンの人気の火付け役にもなってきた。 しかし平成十六年十二月、親会社の貸しビル会社が多額の不良債権を抱えたため、店舗を外資系ファンドに売却し、その後、IT企業が購入。月百万円の家賃を払いながら運営してきたが、昨年末、IT企業から建物を建て替え、従来のライブハウスに加え、音楽のネット配信も行う新たな音楽施設にする計画を打ち明けられた。 当初は「古いし、仕方ないか」と思ったが、周囲からは継続を望む声が上がり、存続を求める会も結成。ミュージシャンも参加して、約十日間で一万二千人を超える署名が集まった。高木社長は銀行を回って融資を頼み、店を買い取るのに必要な三億円のめどはついたが、改築計画を撤回させることはできず、建物は早ければ今月中にも解体工事が始まるという。 関西では老舗の閉鎖などが相次ぐ。神戸の「チキンジョージ」は来春に規模を縮小して再開するものの、今年一月、現在の店舗を一時閉店。大阪でも「ベイサイドジェニー」(大阪市港区)が先月末で閉館。「関西からの音楽発信」の場の減少が続いている。 昭和六十二年オープンの「十三ファンダンゴ」(同市淀川区)の加藤鶴一店長(39)は「ぽかっと穴があいてしまうような寂しい気持ち」。大学時代、バンドの「最終目標」がバナナホールでのライブだった大阪市の男性(38)は「当時の感激は今でも忘れられない。関西の音楽の歴史が壁や床に染み付いている場所なのに…」と悔しがった。 メールで署名したロックバンド「ソウル・フラワー・ユニオン」の中川敬さんも「初めて行ったライブがバナナで、昭和六十三年にボ・ガンボスのライブを初めてみたのもバナナ。演奏者として、客として最も身近なライブハウスでした。何とかなくならないで!」とメッセージを寄せた。 九日の公演は午後七時開演の「曽我部恵一BAND」。当面、バナナホールとしての最後の公演となるが、高木社長は「絶対に閉めたくない」と移転先を探す意向も。 「憂歌団」でボーカルを務めた木村充揮さんは「オープンからずっとお世話になってきて、ほんまに楽しくやらしてもらいました。残念ばっかりゆうてもあかんけど、残念です。また、どこかでみんなで楽しんでほしいなあ」と話していた。