パピルス束は1700年前の「ユダの福音書」写本と確認。米国の科学教育団体、ナショナル・ジオグラフィック協会(本部ワシントン)は6日、70年代にエジプトで発見され古美術商の手にあったパピルス紙の束が、同協会の支援を受けた専門家らによる修復・鑑定作業の結果、初期キリスト教の幻の外典「ユダの福音書」の約1700年前の写本であることが確認された、と発表した。
1700年の眠りから覚めた初期キリスト教の外典「ユダの福音書」の写本が解読され、米ナショナル・ジオグラフィック協会で公開された。新約聖書には、イエス・キリストの弟子ユダがイエスを裏切り、刑吏に引き渡したと記載されているが、「ユダの福音書」では、イエスがユダに対し、自分を裏切るよう命じていたと書かれてあり、キリスト教理解に大転換を促す内容になっている。 この古写本はギリシャ語で書かれた原本のテキストを紀元3―4世紀に古代コプト語に移し替えたうえでパピルスに記録されたもので、66ページに及んでいる。放射性炭素測定やインク分析などを使った徹底的な分析を経て、本物と認定された。 写本には、イエスがユダに対し、「お前はあらゆることがらを越えていくだろう。なぜなら、お前はわたしを包んでいるこの男を犠牲にするからである」と述べたとあり、イエスの肉体からの離脱を手助けすることによって、ユダはイエスの内部にある聖なる「セルフ」の解放を手伝ったと解釈されるという。 ナショナル・ジオグラフィックの担当研究者は「写本の解読はキリスト教研究史上、過去60年で最も重要な発見の一つであり、初期キリスト教の理解のあり方に多大の貢献をするものだ」と位置づけている。 「ユダの福音書」の写本は1970年代にエジプトで見つかり、さまざまな骨董商の手を経て欧州から米国に渡った。ニューヨークの金庫に16年間にわたって保管された後、2000年にスイス・チューリヒの骨董商に買い取られた。 歴史に「ユダの福音書」の名が登場するのは、紀元180年にリヨン司教の聖イレナエウスが残した文書が初めて。この文書では、福音書は偽書であると決め付けられている。 写本は、イエス・キリストを処刑されるよう引き渡した「裏切り者」として聖書で描かれてきた「イスカリオテのユダ」が師と秘密裏に交わした会話録とされる。ユダの行為が、実はイエスの一番弟子として本人の依頼に従い、「救済」を完成させる役目を負った善行だったと主張している。キリスト教が正統としてきた教えとは正反対の内容で、議論を呼びそうだ。鑑定分析に携わった宗教学者らは、その主張が史実かどうかは議論が分かれるとしながらも、「初期キリスト教の多様性を示す非常に重要な発見だ」と話している。 同協会の発表では、文書は最初、エジプト中部の砂漠地帯で見つかった。パピルス紙13枚の表裏に、インクでコプト文字(エジプトのキリスト教徒が使った古代文字)で記されていた。買い手がつかない長年の間、米国の銀行の金庫の中で保管されていたため、激しく傷み、01年に作業が始まった段階ではさわっただけで粉々になりそうな状態だったという。 放射性同位体による年代測定では、紀元後220〜340年という結果が出た。さらに、同協会が支援した国際的な専門家チームが、インクの成分や紙の画像分析、文章の構造や文法、文字の書体などの分析も加えて、3〜4世紀の文書で後世の修整は加えられていないと結論を出した。