農水産物や伝統工芸品などの「地域ブランド」を商標登録する動きが活発化している。
4月からの商標法改正で、地域名と商品名を組み合わせた「地域団体商標」が導入され、登録の要件が大幅に緩和されるためだ。偽ブランドの防止、知名度アップなどを狙いに、出願は500を超すと見込まれるが、同じ産品が違った名前で出願されるなどの混乱もありそうだ。
現行では、地域ブランドの商標が名称だけで取得できるのは、全国的な知名度がある場合に限られ、「夕張メロン」「宇都宮餃子」「西陣織」など十数件しかない。
これに対し、地域団体商標の要件は「隣接県に及ぶほど認識されていること」(特許庁商標課)と緩やか。協同組合などが出願でき、特許庁の約半年の審査で地域との密接な関連性が認められれば登録される。
大分県漁協は4月早々にも、大分市関で水揚げする「関あじ・関さば」の名称を申請する。潮の速い豊後水道で育ち、身の締まった魚は1匹3000〜6000円。一本釣りし、漁協と仲買人4社が扱うものを命名している。別の業者が巻き網で捕ったものを同じ名前で売っていたことがわかるなど、偽ブランドにも手を焼いてきた。「新制度で登録できれば、もう『関』の名は使わせない」と歓迎する。
伝統工芸が盛んな石川県は昨年、補助金200万円を計上して申請を支援しており、13ブランドの出願ラッシュが見込まれる。
「輪島塗」「九谷焼」は他県の業者に名前を無断使用された例があり、最近も台湾の業者が中国で「九谷焼」を登録していたことが判明。「名前を勝手に使われた場合の有力な対抗手段に」(輪島漆器商工業協同組合)、「商標使用権をはっきりさせる」(県九谷陶磁器商工業協同組合連合会)と期待する。「山代温泉」など五つの温泉名も出願される。
新しいブランドも目に付く。「茨城あんこう」を申請する茨城沿海地区漁連は差別化による消費者へのアピールを目指す。
特産を「十勝川西長いも」と命名した北海道・帯広市川西農協は「農家にも自信、責任感を持ってもらいたい」と相乗効果に期待する。
一方、地域や産品の競合なども起こりそうだ。
例えば、静岡・駿河湾のサクラエビ。蒲原、由比、大井川の3町の加工業者の組合が「駿河湾桜えび」、由比町の協議会が「由比桜えび」で申請を予定。3町の組合の会長と、由比町の協議会幹部を兼ねる安部亥太郎さん(58)は「『駿河湾』は駿河湾全体のエビに使える商標。『由比』は、一定の基準以上のエビの商標にしたい」と説明する。
しかし、内部からは「二つのブランドがあると、消費者が迷ってしまう」と心配する声も出ている。