IBMの研究者らが、「カーボンナノチューブ」と呼ばれる単一の円筒状炭素分子を使って単純な電子回路を構築したことを明らかにした。これは、いつかシリコンベースチップよりも高速な後継技術を作り出すための重要な一歩かもしれない。
カーボンナノチューブは、シリコンの枠を超えて半導体技術を進歩させる手段になり得るものとされている。シリコンは、コンピュータを動かすほとんどの近代的な集積回路の基盤を成しているが、間もなく性能向上の限界に達してしまうかもしれない。 IBMは、同社が開発した「論理回路」は、単一のカーボンナノチューブを使った初の回路だとしている。この研究は3月24日、Science誌に掲載される。 何十年もの間、技術者たちはシリコンチップの構成部品を縮小し、小型化したトランジスタを追加することで、チップからさらなる性能を引き出してきた。だが近年、回路の集積度が高まって消費電力が増え、過熱の危険性が増したこともあり、こうした小型化は難しくなっている。 プロセッサメーカー各社は、電力の問題に対処し、チップ内を電流が流れやすくするために、シリコンの原子構造を変えたり、絶縁素材の層を加えるなどの対応策を開発してきた。しかし「どこかの時点で、それも効かなくなる」とマサチューセッツ工科大学(MIT)の電気工学教授、ディミトリ・アントニアディス氏は語る。 カーボンナノチューブには代替手段としての期待が持たれている。技術者らは、カーボンナノチューブはシリコンよりも速く電流を流すことができ、消費電力も少ないと考えているからだ。また格子状の炭素原子が円筒形を成す構造のため、電流を衝突なしで流すこともできるだろう。つまり、もっと高速で効率的な半導体ができるということだ。さらに、カーボンナノチューブは非常に小さい。人間の髪の毛の数万分の1の細さだ。 IBMの研究チームが開発したカーボンナノチューブの回路は「リングオシレータ」だ。これは半導体技術の評価によく使われる基本的なタイプの回路。このオシレータは52MHzの周波数を達成した。複数のカーボンナノチューブをつなぐこれまでの取り組みよりもかなり高速だが、現行のシリコンチップで可能な速度の1000分の1程度でしかない。 このプロジェクトに携わるIBMの研究者ジーホン・チェン氏は、シリコンはあと約15年存続でき、カーボンナノチューブが実用化できるのはまだずっと先だと見積もっている。IBMの研究チームは、従来の半導体製造から幾つかの技術や手法を取り入れたが、カーボンナノチューブは研究室で特別に作らなければならなかった。 チェン氏は、研究チームは、可能な限り最速というわけではないが、単一のカーボンナノチューブによる初の稼働回路を披露することを目指していると語る。この回路が機能させられるようになった今、「性能を高めるために何をするべきか、われわれには分かっている」と同氏は言う。 アントニアディス教授は、カーボンナノチューブが最終的に半導体メーカーの万能薬になるのかどうかは分からないと語る。カーボンナノチューブを取り入れても、半導体メーカーはチップ上のほかのデバイスを縮小するという難しいプロセスを続けなくてはならない。「カーボンナノチューブがその役に立つのかは分からない」と同氏は指摘する。