第134回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞に絲山(いとやま)秋子さん(39)の「沖で待つ」(文学界9月号)が、直木賞に東野圭吾さん(47)の「容疑者Xの献身」(文芸春秋)が選ばれた。2人ともこれまで何度か候補となった実力派で、待望の受賞だ。副賞は各100万円。贈呈式は2月17日午後6時から、東京・丸の内の東京会館で行われる。
「容疑者Xの献身」(文芸春秋)で直木賞を受賞した東野さんは昭和60年にデビュー。江戸川乱歩賞や日本推理作家協会賞を受賞し、ドラマ、映画化も多い。直木賞は平成10年の「秘密」以来6度目の候補入りだった。 直木賞に決まった東野さんは大阪市生まれ。大阪府立大卒。85年、自動車部品メーカー在職中に書いた「放課後」が江戸川乱歩賞を受けてデビュー。日本推理作家協会賞を受けた「秘密」や、現在テレビドラマ放映中の「白夜行」などで、過去に5回直木賞候補になっていた。東京都中央区在住。 直木賞選考委員の阿刀田高さんは「新しいトリックはもうない、というのがミステリーの世界の常識だが、かなり特徴的なトリックを上手に使い、90点を超える作品に仕上げた」と話した。 受賞作は完全犯罪をめぐるミステリーで、選考委員の阿刀田高さんは「ミステリーとして90点以上の完成度」としながらも、「“小説力”を感じる」と実績重視を印象付けた。 「沖で待つ」(文学界九月号)で芥川賞受賞の絲山さんは、4度目の候補だが、前回は直木賞候補。すでに中堅の賞である川端康成文学賞などを受けている実力派の作家だ。最終的には8人中6人が賛成票を投じたという満票に近い評価だった。 絲山さんは東京都世田谷区生まれ。早稲田大卒業後、住宅設備機器メーカーに勤務した。退職後の03年、「イッツ・オンリー・トーク」で文学界新人賞を受賞してデビュー。04年、「袋小路の男」で川端康成文学賞を受賞した。過去に芥川賞候補3回、直木賞候補1回。群馬県高崎市在住。 受賞の感想を聞かれた絲山さんは「芥川賞は足の裏に付いたご飯粒みたいで、取れないと気持ちが悪い。やっとのどの小骨が取れた感じ。今回取れなければ、今後候補を辞退しようと思っていた」と語った 「沖で待つ」は、メーカー同期入社の男女が主人公。どちらかが先に死んだら、生き残った者が、死者の秘密を守るためにパソコンのハードディスクを壊す約束をする。芥川賞選考委員の池澤夏樹さんは「仕事の現場の雰囲気を細かく書いて、男女の同僚としての友情という小説で書きにくいテーマを、上手に過不足なく書き切った」と語った。
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