10日に公開されるジャン・レノの新作映画『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』のクライマックスの舞台、世界遺産のカッパドキアの建造物を破壊するなと地元の住民が怒った。
映画は「クリムゾン・リバー」('00)の原作者であるジャン=クリストフ・グランジェ(本作では脚本に参加)の小説「狼の帝国」を原作にした本作は、パリ10区のトルコ人街で発生した連続猟奇殺人事件を追う二人の刑事を軸に物語は進行していく。「クリムゾン・リバー」同様、本作も若手刑事とベテラン刑事のコンビというバディムービーの定番を踏襲しているが、意表を突くのはその刑事の造形だ。
凄腕ながら汚職の噂がたえない刑事シフェールが、若い刑事ネルトーと共に連続猟奇殺人の捜査へ。やがて、謎のトルコ人組織と、失踪した高級官僚夫人が捜査線上に浮かび、衝撃的な事実に突きあたる。 高級官僚の妻として何不自由のない暮らしをしているアンナは、一ヶ月ほど前から夫の顔が分からないといった記憶障害と薄気味悪い譫妄発作に悩まされているのだが、夫の心配とは裏腹に彼女は周囲と自分自身に対する不信を強めていく。彼女が抱く混乱を周囲の人間はパラノイア的なものとして扱おうとするが、周囲がそうすればそうするほどに、彼女は自分の記憶に対する違和感を基にした自己疎外感と自分は一体何者なのかという自己不信感を募らせるのである。この構図は、P.K.ディックの好んで描いたシュミラクラ的悪夢世界を髣髴させる。 本当の世界遺産ではなく「セット」の象徴として組んだ高さ3mほどの恐ろしい形相をしている石造のことだ。そのできのよさに地元の人はすっかり畏敬の念をいだき、まるでその石造が元からそこにある世界遺産かのようにあがめていた。 しかし、「セット」は映画の撮影の終わりとともに撤去される運命。とり壊しのときは、撮影スタッフがまるで世界遺産を破壊するかのような抗議を受けた。なかには祟(たた)りがあると言い出した住民もいたとか。 日ごろ、世界遺産という重要な財産を守っている住民だからこそそのような発言が自然に出るのも無理はないだろう。 □ 『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』公式サイト