日本人の2割が花粉症に悩むといわれる。今春は東京、福岡などで観測史上最多のスギ花粉飛散量を記録し、苦しんだ人も多かった。来春の花粉の量が気になるところだが、全国的に平年より少なめで、関東周辺は平年の半分以下との予想もある。
気象業務支援センターの村山貢司・専任主任技師は「今春はもちろん、平年より少ない」とみる。その理由として ▽花粉量を左右する7月の日照時間が平年より少なかった ▽花粉量が多かった翌年は少ない 「今春特に多かった関東周辺は来春は平年の50%以下、東海から西は50%以上」と予想する。 スギ花粉を放出する雄花の芽は夏に成長し、11月から休眠状態になる。花芽一つには平均40万個の花粉があるが、その量は休眠中は増えない。そこで、毎年この時期に花芽の数や重さなどを調べ、来春の飛散の総量や開始日を予測する。NPO花粉情報協会などが、来年1月に予測結果を公表する予定だ。 長年、花芽調査をしている林業科学技術振興所の横山敏孝主任研究員は「極端に多く雄花をつけた翌年は、木が消耗していることもあり、新しく雄花をつける枝があまり伸びない。今春は10年に1度の大豊作だったし、花芽の状態を見ても来春は少なめという印象」と話す。 花粉の飛散量が少ないと一般に症状は軽くすむとされる。来春は一安心といいたいところだが、油断は禁物のようだ。 日赤和歌山医療センター耳鼻咽喉科の榎本雅夫部長は、スギ花粉のたんぱく質(抗原)と結びつき、目のかゆみやくしゃみなどのアレルギー症状を引き起こすIgE抗体の数値を、今春の患者42人について調べた。花粉飛散が少なかった前年の患者と比べると、平均して約3倍も高く、シーズンが過ぎた8月でも前年より高い状態だった。 「大量に花粉を浴びたためIgEを作りやすくなっている可能性がある。飛散が多かった翌年は、花粉に反応しやすいと考えられ、注意が必要」と榎本さんは指摘する。 花粉症の症状緩和は今のところ、抗ヒスタミン薬の服用や点眼・点鼻薬などの対症療法が一般的。花粉エキスの注射のように、アレルギーを引き起こすたんぱく質を徐々に体に取り込み、慣らすことで、花粉症を起こしにくい体質にする治療法もある。ただ、注射は数年の通院が必要で負担が大きいため、自宅でできる新対策の研究も進む。 例えば、農業生物資源研究所の花粉症緩和米。遺伝子組み換え技術により、米の中にスギ花粉のたんぱく質の一部を大量に蓄積させた。たんぱく質そのものではないため、急性のアレルギーショック症状を起こす危険性は避けられ、安価にできるのが特長という。担当者の高岩文雄・遺伝子操作チーム長は「米のカプセルに閉じこめた食べるワクチン」と説明する。 同研究所は米300キロを収穫済みで、動物実験で問題がなければ来年にも人に食べてもらい、安全性の効果を検証する計画だ。厚生労働省の研究班も、パンなどに花粉エキスをたらして食べる「舌下減感作(ぜっかげんかんさ)療法」の臨床研究を進めている。