男は売れない俳優の30代の男性のアントワーヌがひょうひょうとパリを闊歩しているように見えるが、しかし近頃孤独の影を隠せない。そんな彼がある日地下鉄でクララに出会うことから物語が動き出す。 美しく、自由で、寛容な女性。生まれて初めて、出会うべくして出会った運命のひとのように強く惹かれあう二人。だが、クララは不治の病HIVに冒されていた…。ラブストーリー。
パリのモンパルナスに住む33歳のアントワーヌは売れない俳優。漠然と何かが満たされない日々を送っている。そんな彼が地下鉄で偶然に目の前に座った女性クララに恋をした。 アントワーヌは思った「清楚で、綺麗で、やさしそうな微笑は、まさしく僕の理想の女性だ。しかし、ここは地下鉄だ。下手にナンパしては彼女に即嫌われるだろう…スマートに、ユーモラスに、焦っちゃダメだ。そうだノートに質問を書いて選んでもらう手はどうかな」 彼女は、微笑みながら、彼に電話番号を教えた。ふたりにとって生涯最高の日が訪れた。ふたりのありきたりの人生に光が差し込んだかのように。彼は、33歳の誕生パーティを友人たちに開いてもらう。概婚者は子供のことを話し、独身者は恋の相手を探す。姉から、両親との仲直りをすすめられ。憂欝になる。クララに電話をかける。 パリのメトロで出会った二人の初デートの待ち合わせはオデオン広場、恋を語らうのは初秋のチュルリー公園、クララのバイト先はTGV。そしてアレクサンドル・ジャルダン「恋人たちのアパルトマン」はクララの愛読書。思わず恋したくなるシチュエーション。音楽は、今フランスでもっとも注目されせいるバンジャマン&キアラのセレブ・カップル。 クララは28歳の作家の卵。TGVでウェイトレスのバイトしている。2人はデートを重ね結婚を決意するが、健康診断の結果はクララに残酷な運命を告げた。アントワーヌの心は動揺する。アントワーヌは最愛の人を愛し抜くことができるのだろうか。 仲間のベノレトラン・ブルガラの楽曲をアレンジしたり、最高のフレンチポップスが楽しめる。監督・脚本は、本作でデビーを飾る新鋭アルノー・ビアール。俳優でもある彼の自伝的作品だ。アントワーヌには、繊細な魅力のジュリアン・ボワスリエ、クララには、気品と寛容さを併せもつ『君が、嘘をついた』のジュリー・ガイエ。フランスの若い才能が結集し、瑞々しい感受性で、いまを映し出した。 メトロ、オデオン(パリ有数の映画街、つまりデートスポット)、サマリテーヌ(セーヌ河畔のデパート、『ポンヌフの恋人』や『ボーン・アイデンティティー』でもおなじみ)、セーヌ河岸でのデート(ノートルダム寺院を裏から眺める映画の定番スポット)、メトロ「モンパルナス」駅の長い通路、主人公が住むのはモンパルナスのゲテ街と、フランス映画ファンやパリ好きには、出てきただけで思わずニヤリとするパリのアイコンがちりばめられている。2人が出合い、愛を深め、別れ、そして再び愛を確信するまでを、ちょっと70年代風な演出でユーモアを交えながら見せてくれるラブストーリーだ。劇中流れるフレンチポップスも新曲なのにレトロなムードで、「どこかで聴いたことがある」感があり、心地いい。
■ 『メトロで恋して』公式サイト