富士重工業が、産業再生機構の支援を受けて再建中のカネボウから、ハイブリッド車や燃料電池車などの自動車に応用できる次世代電池の事業を買い取っていたことが、日経ビジネスの取材で明らかになった。
「電気二重層キャパシター」と呼ばれる蓄電装置関連の事業で、ニッケル水素やリチウムイオンなど蓄電が可能な2次電池に比べ、大出力の電力を瞬時に充放電できる。しかも半永久的に使え、有害物資を含まない利点もあり、自動車業界からの期待が大きい。富士重は、2010年をメドに商品化に漕ぎ着け、他社にも販売したい考えだ。 カネボウは、古くから蓄電池の研究開発に熱心で、大手電機メーカーと肩を並べるほどの技術力を備えていた。だが電池事業も売却対象となり、昨年12月、携帯機器用の蓄電池などの開発を手がける昭栄エレクトロニクスへ13億円で営業譲渡された。 この時、ハイブリッド車などの動力源に適した大容量キャパシターに関する約20件の特許については昭栄エレへの譲渡契約の対象外となっていた。 この約20件を含む知的財産権のほか、電池事業があった山口県防府工場の設備と人員の一部を今年3月、富士重が約1億円で譲り受けたと見られる。金額は小さいものの、「10億円の価値はある特許で、富士重にとってはいい買い物だった」という。 電池事業の多くは昭栄エレの手に渡ったが、大容量のキャパシター事業も将来、市場拡大が見込める有望分野である。これを昭栄エレではなく、富士重が手中に収めることができたのは、産業再生機構との間で粘り強い交渉があったからだと言われる。 実は、それほどまでに欲しがる理由が、今の富士重にはある。 ハイブリッド車や燃料電池車など、大手自動車メーカーは、次世代自動車の開発競争にしのぎを削っているが、富士重には本格的な開発に着手する体力がない。今年5月、2度目となる中期経営計画の下方修正を行い、2006年度に予定していたハイブリッド車の投入を2007年度以降に延期すると発表した。2006年度の世界販売台数を1割弱減らし、最終利益目標についても4割下げている。 こうした状況の中で、次世代自動車の研究開発に巨額の投資を行うのは難しい。そこで、自動車向け蓄電池への“選択と集中”によって活路を開こうとしているわけだ。 今後、ハイブリッド車を中心とした次世代自動車向け蓄電装置の需要は、間違いなく伸びる。独自技術を量産化に持ち込み、ほかのメーカーにも供給する一方で、ハイブリッド車や燃料電池車の基盤技術は他メーカーから調達する。そんな戦略が透けて見える。 富士重はカネボウが産業再生機構の支援を受ける前から、自動車向けのキャパシターの研究開発にカネボウと共同で取り組んできた経緯がある。2002年5月には、NECと共同で自動車向け2次電池の開発会社も設立している。ハイブリッド車の電池の供給を松下電器産業グループから受けているトヨタ自動車など、ほかの自動車メーカーに比べ、富士重が電池技術に異様なまでの執着心を見せているのは確かだ。 「電池で将来の飯の種を確保」 新たな収益源としての期待もにじむ。「各自動車メーカーは、ハイブリッド車や燃料電池車の改良を重ねているが、電池そのものにはあまり手をつけていない。当社は、大きな会社ではないので、電池で将来の飯の種を確保したいということ。2010年頃までには、何とか商品にしていきたい」。 ただし今のところ「まだ研究開発の途上で、公に発表できる段階にない。詳細については話せない」とするように、事業として成功するかどうかは未知数だ。日清紡やパワーシステムなど十数社が、自動車向けキャパシターの量産化に名乗りを上げており、ライバルも多い。一方で現在のハイブリッド車に搭載されている2次電池の改良も、大手電機メーカーを中心に進められている。提携戦略とも絡み、電池が富士重生き残りのカギとなるのかが注目されるが、見極めるにはしばらく時間がかかりそうだ。