苦痛を伴い、ときには命にかかわる複数の疾病との関連を指摘されている謎の微粒子が、雲に乗って移動することで世界中に散らばっている可能性があるという。プロテオーム[遺伝子をもとに作られるタンパク質全般に関する研究]の学術誌、『ジャーナル・オブ・プロテオーム・リサーチ』で研究者が報告した。
フィンランドの生化学者、オラビ・カヤンデル博士は、ある研究の途中で偶然、謎の微粒子「ナノバクテリア」を発見した。
発見当時、この物質が地球上で最も単純な形の生命体ではないかとの論議を巻き起こすことになるとは思わなかったし、痛みを伴ったり、ときには命にかかわったりする数々の病気の原因になりうるものだとも考えていなかった。
微粒子はバクテリアには似ているが、その大きさは100分の1と驚異的に小さく、しかも死にかけている細胞の内部で成長しているように見えた。
これは新しい形態の生命体の可能性があると考えたカヤンデル博士は、この微粒子を「ナノバクテリア」と名づけ、この発見の大要を述べた論文を発表した。これをきっかけに、現代の微生物学の分野では最大規模となる論争が巻き起こった。
論争の焦点になっているのは、ナノバクテリアは本当に新種の生命体と言えるのかどうかという問題だ。今に至るまで反対派は、直径わずか20〜200ナノメートル[1ナノメートルは10億分の1メートル]しかない微粒子では、生命を維持するのに必要な構成要素を保持できないだろうと主張している。
またこの微粒子は、熱など、通常はバクテリアを死滅させるような条件下でも信じられないほどの耐性を示す。こうした特性をもつことから、この微粒子は生命体ではなく、珍しい形の結晶体ではないかと考える科学者もいる。
大気中で採取したナノバクテリアの粒子を、大きさや形状といった7つの重要な基準に照らして比較したところ、人体で見つかったナノバクテリアと非常によく似ていた。この結果は、人間が大気を通じてナノバクテリアに感染している可能性を示唆するものだ。
ゾマー博士はこの研究についての紹介文の中で、ナノバクテリアは人間の尿から大気中に放出されているのではないかとの推察を示している。尿とともに下水に流れ込み、その後空気中に拡散しているというのだ。
大気中に放出されたナノバクテリアは、乾燥した状態、または湿った状態で再び地上に落下してくる。乾燥したナノバクテリアは比較的無害だが、雨粒とともに降ってくる湿ったナノバクテリアは「活動状態」を維持しており、感染力があるのではないかという。
「一時的に乾燥した状態で重力によって大気中から地表へと戻ってくる微生物は活性を失っており、ほとんど害を及ぼさない可能性が高い。これに対し、雨粒とともに地上に降りてくる微生物は、活性化に適した条件が比較的整っている寿命の長い雲の中で、それまでしばらくの時間を過ごしている」と、研究報告には記されている。
研究チームはさらに、ナノバクテリアが大気中の水滴を集めるのに最適な大きさに凝集し、雲の形成を促している可能性があるとも述べている。