ポール・スミス、テレンス・コンラン卿と並び英国3大デザイナーと称されるDyson(ダイソン)社の創業者、ジェームズ・ダイソン氏。世界各国で愛されているユニークなデザインの掃除機からは、「デザインは機能性を追及することから始まる」というダイソン氏のモノづくりの思想が強くあらわれています。
「優れたデザインは既成概念を捨て常に新鮮な視点から物事を眺め、より良い機能と性能を挑戦的に求めることから生まれる」
他と違う斬新な技術を追求する日本人の精神に、以前から共感を抱いていました。フーバー社などの大手メーカーにライセンス契約を拒まれた後に、私の開発した革新的なサイクロン技術を最初に受け入れた国も、このハイテク製品の国、日本でした。この時は、私のデザイン思想が最終的に日本で商品化できただけでなく、人々は優れた技術を望んでいるという信念が支えられ、技術意欲が高められた大きな契機となりました。
日常生活で使う製品に不満を感じ、「私ならもっと使いやすく設計したのに」と思う人は多くいると思いますが、その考えを行動に移す人はほとんどいません。しかし、私は機能性を改良し、よりよい製品を作るために行動したのです。以来、成熟したユビキタス技術を取り入れ改良したデュアルサイクロン?クリーナーなど、機能性を改善・向上する発明をし続けています。
従来の自転車の問題点を解決し、改良型の自転車を作り出したアレックス・モールトン、ダブルヘリカルギア(double helical gears)を発明した有名なカーデザイナーのアンドレ・シトロエンや、25歳の若さでソニーを共同設立した盛田昭夫氏らを尊敬しており、彼らのように独創性と革新性に優れた思想を持ち、まったく新しいライフスタイルと文化を生み出そうとする精神を持っている若手デザイナーたちを奨励し、支援しています。
1987年11月のある日の午後6時半ごろ、一本の電話が鳴りました。その電話の内容は、まさに青天の霹靂でした。「吸引力の衰えない」掃除機の開発に費やした私の長年の努力、発想、資金がすべて水の泡になりかねない知らせだったからです。米国のライバル会社が、私のクリーナーにそっくりのサイクロン掃除機を発売したというのです。それほど私が驚いたのは、不意に出し抜かれたからではなく、同社が私を出し抜くために私のアイデアとデザインを盗んだという事実があったからでした。 その電話の3年ほど前に、デュアルサイクロンクリーナーの製造ライセンスについて同社と話をしたことがありました。同社はライセンス契約に一度は同意しましたが、綿密に調査したが技術的に機能するとは思えないという理由で、後に契約から手を引いたのです。しかし、そのアイデアを採用し、しかも私のデザインをベースにして、独自にサイクロン掃除機を製造したのですから、実際には正反対のことを考えていたわけです。 もし私がその発明を誰かに話す前に、米国で特許を出願していなかったら、私はすべてを失っていたでしょう。特許を出願していたからこそ、特許侵害として同社を訴え、発明の権利を奪回できたのです。 次世代を担う日本のデザイナーにも、身の回りの物に目を向けて、既成概念を捨て去り、広い視野とチャレンジ精神を持って、新しいデザイン思想に取り組んで欲しいと願っています。私は、若者が物作りに参加できる機会を提供することが必要だと言い続けてきました。デザインと技術に携わる仕事の面白さや充実感を、多くの若者に知ってもらいたいと思っているのです。 James Dyson ジェームズ・ダイソン 英国3大デザイナー ジェームズ・ダイソン 1947年生まれのジェームズ・ダイソンはロンドンの王立美術大学(Royal College of Art) で、家具とインテリアデザインを専攻し、同時にエンジニアリングを学ぶ。 紙パック式掃除機の不満から、15年の歳月をかけて開発及びビジネス展開されたサイクロン技術を元に、1993年英国ダイソン社を設立。発売後たった3年で英国掃除機市場の約50%のシェアを獲得するなど、そのパフォーマンスの高さは世界で評価されている。現在35カ国で発売。 □ 逆風野郎 ダイソン成功物語
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