年明け早々、マックホルツ彗星の接近が話題です。夜空にふらりと現れ、尾をたなびかせて去っていく天空の放浪者・彗星は、約45億年前に太陽系ができたころの状態を留めているタイムカプセル。また彗星に含まれる有機物は地球生命の誕生に重要な役割を果たしたかもしれないという。だがその正体はまだよくわかっていない。そこで彗星に接近し、衝撃弾を撃ち込み内部を見ようという大胆なミッションが1月12日に発進する。その名もディープ・インパクト。
1月12日(アメリカ東部時間)に米フロリダ州ケープカナベラル基地を飛び立つ予定のNASA彗星探査機ディープ・インパクトは、約6ヶ月の飛行のあと7月4日(アメリカの独立記念日)、テンペル1彗星の頭(核)に重さ約372kgの銅製の「インパクター」を衝突させる。
彗星に大爆発が起こり、クレーターができる様子は探査機のカメラだけでなく、宇宙を飛ぶNASAのハッブル宇宙望遠鏡、X線天文衛星チャンドラ、宇宙赤外線望遠鏡スピッツァー、そして地上の望遠鏡が観測。私達は初めて、彗星の核の内部を見ることになる。
ガリレイの時代には、彗星は大気現象だと思われていた。宇宙の彼方からやってきた天体だとは考えられていなかったのだ。彗星が天体だと証明したのはニュートン。
そして彗星の研究に革命をもたらしたのはフレッド・ホイップル。6個の彗星の発見者でもあるホイップルは1950〜1951年に、彗星はチリのまじった氷だとの仮説を出し、新聞記者が「汚れた雪球」と名づけた。雪の少ないところで雪だるまを作ると、土がついて黒く汚れてしまう。あの黒っぽい雪だるまが彗星の正体だと考えればいい。
1986年にハレー彗星が接近した際、日米欧露の探査機が観測。ヨーロッパの探査機ジオットが中心核を撮影した結果、ハレー彗星の中心核はたしかに真黒な雪球のようであり、ホイップルの仮説は証明された。
しかし、真黒な塵に覆われた彗星の核内部の様子はほとんどわかっていない。ディープ・インパクトが今回初めて明らかにする彗星の内部の様子は、太陽系や私達の起源について、大きなインパクトをもたらすかもしれない。
趣味高じてNASAに“協力”…彗星観測の研究員
彗星(すいせい)の構造を探るため、米航空宇宙局(NASA)が独立記念日の7月4日に実施する「ディープ・インパクト計画」に、群馬県高山村の県立ぐんま天文台の河北秀世研究員(34)ら日本の研究者グループが地上からの観測で協力する。
計画では、1867年に発見された「テンペル第一彗星」の核に、探査機「ディープ・インパクト」から直径約1メートル、重さ約370キロの銅製の塊を撃ち込む。秒速10キロの速度で衝突させ、飛び散った氷の破片や露出した内部を探査機の赤外線カメラで撮影し、地上からも天体望遠鏡で観測する。
日本では、河北研究員が国立天文台(東京都三鷹市)の渡部潤一助教授らと、彗星に含まれるアンモニアなどの化学物質や氷の粒などを観測、分析する。実施時期が本州などでは梅雨の時期に当たるため、観測候補地として沖縄県が挙がっている。
NASAはハワイ・マウナケア山にある大望遠鏡を使った地上観測を計画しているが、河北研究員は「時差のある日本で観測することで、内部から掘り起こされた物質をより詳しく解明できるチャンスがある」と意欲を見せている。
河北研究員は大手電機メーカーの工場勤務時代から、趣味で彗星観測を続けていた。7年前に、ぐんま天文台に転職、本格的に研究を始めた。枠にとらわれない発想で彗星の氷粒検出に成功したことなどが評価され、昨年7月、宇宙空間研究委員会の「ゼルドビッチ賞」(月・惑星分野)を日本人で初めて受賞。NASAから地上観測の協力を要請された。
□ NASA DEEP Impact