携帯電話の小さな画面でインターネット情報や大きな写真を見るのはやっかいなもの。すべての情報を表示するには文字を小さくする必要がある。文字を大きくすると上下左右の矢印キーを親指で操作しながら画面をずらす手間がかかる。こんな問題を解消したのがフィンランドに本社を置くエフ―オリジン社だ。
エフ社が開発したのは、端末を傾けるだけで画面が上下左右にスクロールする技術。例えば、画面右端に隠れた情報を見るには、端末の左側を上に傾ける。中核技術は傾きを検知する振動加速度計の半導体と、傾き具合を画像表示に反映するソフトウエアだ。
エフ社は試作した端末にもう1つの機能を載せた。端末の片面すべてを表示装置に割いて表示面積を拡大。タッチスクリーンの要領で画面に触れて電話番号などを入力する。ユニークなのは表示された番号キーやアイコンに触れる度に、実際のボタンを押したような感触が指に伝わってくる点だ。しかも、アイコンの種類によって感触を自在に変えられる。
「技術的には完成。後は商用化を待つだけなのよ」。営業担当のグロリア・マシコ副社長は売り込みに懸命だ。本社と研究開発はフィンランドに置くが、マシコ副社長が率いる営業部隊は最大市場である米国にある。これまでに韓国のサムスン電子など数社が興味を示し、採用交渉を始めたところ。技術のライセンス料が収入源となる。 米調査会社ストラテジー・アナリスティックスによると、利用者の使い勝手を高めるユーザーインターフェースは次世代携帯端末の競争力の源泉。2010年までに3億台の携帯端末がエフ社が開発したような傾き検知の技術を取り入れると予測する。 ナスダック店頭市場に上場するシナプティックス社(カリフォルニア州)は別の手法でユーザーインターフェースの改善に取り組んでいる。ノート型パソコンで一般的となっている指先ポインター。このポインターを動かす薄型シートに用いる静電容量の原理を転用して開発を進めている。 商品はすでにある。例えば、ノキア製携帯電話ではテンキー全体を1枚の静電容量シートに見立て、そこの記号や数字を指先でなぞると入力できる。手書き・ペン入力に似たような感覚だ。ソニーエリクソン製では様々な機能の選択や画面の上下方向スクロールに使った。シートをなぞる速度を変えれば、スクロール速度も加減できる。 こうしたユーザーインターフェース技術は携帯電話だけでなく、携帯音楽再生機や家電製品のリモコンなど応用範囲も広く、潜在的な市場は膨大な規模になるとみられている。 米ゼロックスのパロアルト研究所が開発し、アップルコンピュータが取り入れたグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)は、その後のパソコン市場の爆発的な成長をもたらした。一見すると地味な携帯電話のユーザーインターフェース技術だが、過小評価は禁物だ。