ナノテク(超微細技術)の代表選手であるカーボンナノチューブを長さ2.5ミリまで成長させる新しい合成法を産業技術総合研究所が開発し、水ちょっと加え、カーボンナノチューブ画期的新製法を、19日発行の米科学誌サイエンスに発表する。目に見える大きさにできたのは画期的と、ナノチューブの発見者の飯島澄男・産総研ナノカーボン研究センター長はいう。
カーボンナノチューブは炭素でできた極微細の筒。電子素子や燃料電池などへの応用が期待され、世界中で盛んに研究されている。 だが、触媒を「タネ」にエチレンなどのガスに含まれる炭素原子を堆積(たいせき)させる従来法だと、最高でも長さ1000分の4ミリ程度にしかできなかった。 畠賢治主任研究員らの研究チームはガスの中に微量の水を入れると、触媒の能力が大幅に向上することを発見した。 今回の技術は、ナノチューブの中でも利用価値が極めて高い「単層型」で開発された。従来品より2000倍も純度が高い単層型を、数百分の1のコストで作れる可能性があるという。 またナノチューブを、狙った方向へ狙った長さまで成長させる技術は、将来トランジスタやセンサーとして活用するのに重要だ。これで、花のような形を作ることもできた。 ナノチューブは、700度以上に熱したガス状の炭素を、金属を含んだ基盤上に吹き付けて合成する。同グループはガス中に微量の水を注入。チューブの合成を阻む不純物を燃やし、10分間という短時間に効率良く高純度チューブ(99・98%)を作ることに成功した。製造コストも従来の数百分の1に圧縮することが可能。 カーボンナノチューブは高価で大量生産が難しく、実用化が遅れていた。同グループには、米航空宇宙局(NASA)などを始め研究室や企業から、サンプル提供の申し込みが相次いでいる。 従来の製造法に水を微量加えるだけの簡単な方法で、長さ2・5ミリ・メートルの単層チューブを作ることに成功。さらに、低コストで円筒形やフィルム状など形を自在に変えられるのが特徴という。プラズマディスプレーやエネルギー貯蔵用電源など、幅広い応用が期待されている。
カーボンナノチューブの発見者である同研究所の飯島澄男ナノカーボン研究センター長は「待ちに待った成果。研究が活気づくのではないか、ナノチューブ関連では最近、欧米がいい成果を出しているが、今回の技術は久しぶりの『日本発』として画期的なものだ」と話している。
◆カーボンナノチューブ
炭素原子が網目状に並び、円筒形のチューブの形になった物質。構造は竹カゴに酷似している。毛髪の数千分の1の直径でも、鉄の約20倍の強度があり、大量の電気を蓄えることができる。半導体、次世代プラズマ画面の素材、触媒など、応用範囲は極めて広い。