◇輪は衛星の残りかす
土星は地球や火星と違い、大部分が水素やヘリウムでできているガス状惑星だ。ガス状惑星の特徴は輪を持つことで、木星や天王星、海王星にも輪がある。しかし、土星ほど鮮明ではない。
土星の輪は内側から順にD、C、B、A、F、G、Eの七つ(アルファベット順に発見)に大別されている。それぞれの輪はさらに細い輪に分かれている。天体望遠鏡で見ると板状だが、実際には数ミリ〜数メートル大の氷塊やちりがひしめきあっている。この輪はいつ、どうやってできたのか。
二つの説がある。一つは太陽系が誕生した約46億年前、太陽の周りのガスを集めて土星や衛星ができた際、残りのガスが次第に輪を作ったとする説だ。しかし、この説では、土星以外のガス状惑星が鮮明な輪を持たない理由の説明が難しい。
もう一つは「最近(10万年以内)できた」という説だ。この説では太陽系に飛び込んできたすい星が土星の重力で砕け、そのかけらや氷塊が輪を作ったと推定するが、想像の域を出ない。
「カッシーニ」の観測データによると、輪は氷が主体であるのに対し、AとBの輪の間にある「カッシーニ間隙(かんげき)」と呼ばれるすき間には、黒っぽい物質がより多く存在する。この物質は土星の衛星の一つである「フェーベ」で観測された黒っぽい物質とよく似ているという。
NASAの研究者はこの結果から、「衛星の残りのガスが輪になったとの説が強まる」とみている。
カッシーニはもう一つ興味深い発見をした。最も外側のEリングで、酸素原子が増加していることが分かったのだ。NASAジェット推進研究所の科学者は、輪の中で氷塊や岩石が衝突したか、いん石が氷塊に衝突した際に酸素が放出されたと推定している。輪を構成する氷塊や岩石の衝突が原因だとすると、それらは粉々になって拡散する可能性があり、「Eリングは1億年先には消えてしまうかもしれない」という。
東京工大理学部の井田茂・助教授(惑星物理学)は「輪は消える運命にあるのか、消えないように拡散を抑えている何かがあるのか、興味は尽きない」と話している。
◇衛星タイタンに着陸機
カッシーニは今後4年間土星にとどまり、土星の周りを76周して、三つの仕事をする。土星本体の観測と輪の構造や成分の観測、そして衛星の探査だ。衛星探査のハイライトは「タイタン」への着陸機投入で、今年のクリスマスに始まる。
タイタンは土星の衛星31個のうち最大で、太陽系惑星の衛星では唯一、大気を持っている。これまでの観測で、大気が地球と同じ窒素を主成分としていることが分かった。地表には、原始地球を思わせる炭化水素の海が広がっている可能性もあり、生命の誕生に必要な環境がタイタンにあるかどうかが関心を集めている。着陸を試みるのは今回が初めてだ。
計画では、欧州宇宙機関(ESA)が開発した着陸機「ホイヘンス」が12月25日、カッシーニから切り離され、来年1月14日、タイタンに突入する。パラシュートを開き、慎重に地表に降りる。バッテリーが持つのは3時間。予想だと、最後の30分間に地表の様子をカッシーニ経由で地球に届ける。
任務を終えたカッシーニの最期は決まっていない。土星のガスの中に突入するか、輪を横切り、「カッシーニ間隙」に突入することなどが検討される。
◇費用3600億円、最後の重厚長大計画
カッシーニは高さ6.8メートル、幅4メートルと、トラック並みの大きさで、燃料を含む重量は5.7トンに達する。総費用は約33億ドル(約3600億円)で、「最後の重厚長大型惑星探査計画」とも言われる。
打ち上げは97年10月15日。金星、地球と木星の重力を利用して加速する「スイングバイ」を4回実施したため、総飛行距離は地球−土星間の平均距離約14億3000万キロの約2.5倍に相当する約35億キロに及んだ。
カッシーニ計画は打ち上げ15年前の82年に正式に始まった。探査機製造には約5万人が従事し、飛行や探査には約450人の研究者らがかかわっている。
巨額の費用がかかるため、開発当初から「金食い虫」との批判が少なくなかった。また、動力源としてプルトニウム電池を搭載しているため、環境団体などが「打ち上げに失敗すれば放射能汚染の恐れがある」と打ち上げに反対した。地球をスイングバイした際にも、反対運動が起こった。
NASAは近年、緊縮財政を余儀なくされ、より安価な惑星探査計画を模索している。今年1月に無人探査車「スピリット」と「オポチュニティー」の2機を相次いで火星に送り込んだ火星探査計画の費用は8億3500万ドル(約910億円)と、カッシーニ計画の約4分の1にすぎない。
◆ことば◆土星の輪
輪を最初に見つけたのは1610年、イタリアのガリレオだ。しかし、手作りの望遠鏡では限界があり、惑星に寄り添う二つの星か「耳」のような突起と考えていた。
オランダのホイヘンスは1655年、それが輪であることを確認した。パリ天文台長だったカッシーニは1675年、輪にすき間(カッシーニ間隙)があることを明らかにした。地上からの観測で四つ見つかっていた輪は、米探査機のパイオニア11号(1979年)、ボイジャー1号(80年)の探査で七つに分かれることが判明した。
土星の衛星ディオネを撮影 地表に氷が存在
米航空宇宙局(NASA)は19日、土星探査機「カッシーニ」が撮影した土星の衛星ディオネ(直径約1118キロ)の写真を公開した。
明るさを増幅した画像では、影になっている部分も、ディオネから約38万キロ離れた土星が反射する太陽光でほのかに照らされている様子がわかる。地球が反射した太陽光で月の欠けた部分が光って見える現象「地球照(ちきゅうしょう)」の土星版だ。照らされた部分の明るさに微妙な違いがあるのは、ディオネの地表に氷が存在するためだと考えられている。
写真はカッシーニが土星周回軌道に入った後の今月2日、ディオネから約140万キロの距離で撮影された。三日月状に光っている部分と影の部分の境界線上には、大きなクレーターも見える。